ある雑居ビルのテナントに入っている人たちそれぞれを主人公にした連作短編集。男運のないシングルマザーのマッサージ師、一番になれない劣等感をかかえたカフェバー店長、バンドをしながら古書店でバイトしている女の子、本命になれないと知りつつイケメンと別れられないIT企業社員など、誰もがさまざなま問題や悩みを抱えて生きていて、いずれもラストで少しだけ前向きになる、過程とエピソードに説得力があって読後感がいい。
すべての短編に共通して出てくるアイテムとしてウツミマコトという元画家の監督映画『深海魚』という作品があるのだけど(ブラックスワンのシンクロ版みたいなダークラブストーリー)きっと最終話はこのウツミマコトが主役なのだろうなと勝手に予測していたら、本人は全く出てこなかった(苦笑)最終話は、雑居ビルの向かいのマンションに住む女性の話でした。
基本的にはどの話も良かった。彩瀬まるは長編の『あの人は蜘蛛を殺せない』を読んだときにとても巧いなと感心して、今回も登場人物の設定や心理の移行は丁寧で相変わらず上手だなと思ったのだけど、たまに細部で雑?と言っていいのか、ちょっとしたことで引っかかってしまう部分があり・・・
例えば最終話で主人公がカビだらけの「くずかご」をお風呂場に持ち込んでカビキラーを吹きかけるくだりがあるんですが、そこで主人公はバスルームの他の部分にもカビキラーを噴射し、なおかつ、バスタブの汚れを洗剤をつけてごしごし洗う。一応換気扇は回してあるけれど、たぶんカビキラーしたバスルームに長時間滞在しないほうがいい。気分悪くなるよ?なおかつ、主人公は「数時間後」にすべて洗い終えてバスルームから出てくる。え、ちょっと待って、風呂掃除に何時間かかってるの?・・・と言った具合で、物語の本筋と関係ない部分にちょっと引っ掛かりを感じてしまいました。ごめんなさい、もしかして校閲ドラマの見すぎで校閲体質になってしまったのかもしれません(苦笑)
※収録作品
泥雪/七番目の神様/龍を見送る/光る背中/塔は崩れ、食事は止まず
- 感想投稿日 : 2016年10月24日
- 読了日 : 2016年10月22日
- 本棚登録日 : 2016年10月14日
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