『黒い時計の旅』とほぼ同時に読み始めて(黒い~は家で読む用、こちらは通勤電車用)黒い時計~は面白くてぐいぐい読み終えたのだけど、こちらはどうにも捗らなくて、半分くらい読んで1回数日寝かせてから再チャレンジ。後半に入ってやっと面白くなってきてなんとか読み終えました。先にこっちを読んでいたら、他のエリクソン作品を読もうと思わなかったかもしれない。難解・・・というか、入り込み辛かったのはあまりにもこの小説が「アメリカ」それも「現代のアメリカ」すぎたからかなあ。ナチスの時代なら過去のこととしてファンタジー化できるけれど、オバマだのブランジェリーナだのまだ生きてる人のことは近すぎて。デヴィット・ボウイは死んじゃったけど書かれた時点ではまだ存命だし。
物語の舞台はアメリカだけでなくロンドン、パリ、ベルリン、エチオピアとどんどん移り変わっていく。主人公は元作家のザン、写真家の妻ヴィヴ、12歳の息子パーカー、そしてエチオピアから迎えた養女のシバ4歳の一家。ストーリーのアウトラインだけ辿るなら崩壊しかかった家族の再生物語。前半いまいち入りこめなかったのは、このファミリーのそれぞれがてんでバラバラに自分勝手なことをしていて、なんだかイライラしたから。あっというまに借金まみれになってしまう不安定な家庭でわざわざ南アフリカから養女を迎える夫婦、そのうえ養女の親戚に送金し続けたり、本当の母親をつきとめようと探偵までやとい、超貧乏になってもまだエチオピアまで実母探しに出かけるヴィヴの行動が全く理解できず、だったら養女など貰わなければいいのにと思ってしまう。
中盤からザンの小説の中で起こったこととシバの祖母ジャスミンの過去が交差しはじめ、このくだりは黒い時計~同様とても面白かった。小説に書かれたことが現実でも実現していくのか、それとも現実に起こったことを小説に書いているだけなのか、その女性は実在するのか、たまたま小説の登場人物に選ばれてしまっただけなのか、それとも小説に書かれることによって彼女は存在したのか。ふいに時空がねじ曲がって、別の二十世紀に放り込まれてしまう感覚はとても好き。「ユリシーズ」が書かれる前の時代にそのペーパーバックを手にしてタイムスリップしてしまった男、ザンの小説の中で起こることがとても興味深かった。
- 感想投稿日 : 2016年3月29日
- 読了日 : 2016年3月28日
- 本棚登録日 : 2016年3月17日
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