戦場のコックたち (創元推理文庫)

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本棚登録 : 446
レビュー : 26
著者 :
yamaitsuさん  >は行   読み終わった 

デビュー短編集『オーブランの少女』が良かったので、次の作品を期待していた深緑野分、文庫で読むので3年ぶりになる2冊目の本がこちら。分厚くてびっくり。やや幻想よりだった『オーブラン~』とうってかわってこちらは戦場を舞台にした連作ミステリ風長編。背景になる世界史を詳細に調べ上げてそこにミステリを絡めてくるあたりも、デビュー作からの作風の幅広さも、私の中では早くも深緑野分はポスト皆川博子。

舞台は第二次世界大戦中、1944年6月のノルマンディー上陸作戦を皮切りに各地を転戦していく合衆国軍のコック(特技兵)ティムが主人公。同じくコックのリーダーで冷静沈着なエド、同僚の陽気でお調子者のディエゴ、フランケンよばわりされてるダンヒル、おしゃべりな補給兵のオハラ、口は悪いけど機転の利く衛生兵のスパーク、イケメンで調達上手なライナス、作家志望の通信兵ワインバーグら、個性豊かな仲間たちと、戦地の日常の中で起こるちょっとした謎を解き明かしていく。

とはいえ、場所はあくまで戦場。なので当然ティムは望まずとも敵を殺さねばならず、戦地の民間人も犠牲になるし、仲間たちも次々と命を落としていく。命が無事でも心が壊れてしまう者もいて、戦争がもたらす悲劇の多様性も描かれている。

生い立ちも出自もさまざまなキャラクターたちがこういった特殊な状況の中で友情を育む部分だけが心癒された。主人公ティムのニックネームは「キッド」素直で子供っぽく根が善良な彼ですら、戦場ではそれなりに荒むけれど、そんな自分を自覚し反省する度量があるから彼は「まとも」で、彼の戦友たちはそんな彼の普通さに救われていたのだろう。

実際の探偵役を担うエドも魅力的なキャラクターだったけど、個人的にはライナスがお気に入りでした。イケメンだからじゃないよ!(笑)それぞれの登場人物にそれまでの人生がありドラマがある。けれど戦争は一瞬であっけなく彼らからその後の人生を奪ってしまう。その容赦なさを十二分に描き出してあって、なおかつ読みものとしての娯楽性もあり、寡作だけど深緑野分はずっと追いかけていきたい信頼に足る作家と確信。

レビュー投稿日
2019年9月2日
読了日
2019年8月30日
本棚登録日
2019年8月30日
2
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