失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)

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本棚登録 : 164
レビュー : 14
制作 : Franz Kafka  池内 紀 
yamaitsuさん  ★ドイツ・東欧 他   読み終わった 

かつては「アメリカ」のタイトルで出版されていたカフカ未完の長編。ドイツ人の少年カールはメイドを妊娠させた咎でアメリカへと追放される。船旅の終わりに巻き込まれる奇妙な火夫と船長らのいざこざは、独立した短編「火夫」としても発表されているらしい。その船上で金持ちの血縁ヤーコブ叔父さんに思いがけず見出されたカールは、しばらくは叔父さんの許で英語やピアノ、乗馬のレッスンに励むが、ある日叔父さんの友人グリーン氏とポランダー氏、その娘クララらの策略(?)で、叔父さんに捨てられてしまい・・・

ここからカールの終わりなき彷徨が始まる。なりゆきで同行することになったフランス人ドラマルシュとアイルランド人ロビンソンは最初は親切だったもののそのうち本性を現したので喧嘩別れ。親切なホテルの調理主任に拾われてエレベーターボーイとして働きだすカールだが、ドラマルシュらとの腐れ縁が切れずホテルもクビにされてしまう。ドラマルシュは肥満した元歌手ブルネルダのヒモのような生活をしており、召使としてこき使うためにカールを軟禁。それでもカールは真面目に働こうとするところで物語は途切れている。

基本的にはカフカらしい不条理満載の物語なのだけど、登場人物が皆ちょっとづつ変で、しかしその異様さは、不条理を通り越して逆に「現実にこういう人いるいる」感もあって怖くなった。カール少年は、賢いようで抜けているし、しっかりしているけど騙されやすい。でも基本的には働き者で、与えられた任務を全うすることに喜びを感じるタイプっぽい。不本意な仕事を押し付けられながらも、少しでも効率よくそれをこなそうと考えるあたりは前向きなのだけど、いかんせん流され体質なのでもどかしい。

カールその後のエピソードと思しき「断片」も収録されており、どうやらカールはブルネルダに気に入られて二人で引っ越しをするが、その場面だけで前後はなく、次の断片ではすでにカールは無職でひとりぼっち、劇場の求人募集に応募する。おかしな面接の様子が延々続くもののどうにか採用されたカールが汽車に乗り込んでまた断片は終わる。どうやらこの調子では、カールは終わりなき就職と失業を繰り返していくんじゃなかろうか。これは「労働」に関するなんらかの寓話だったのかしら。

未完ではあるけれど、そもそもカフカゆえ、完結していたところでスッキリ納得のオチがついていたとも思えず、そういう意味ではぼんやりフェイドアウトしていくこの未完成の感じこそが、一番完成形に近いのかもしれないですね。

レビュー投稿日
2016年10月24日
読了日
2016年10月23日
本棚登録日
2016年10月17日
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