ユリイカ 2019年8月臨時増刊号 総特集◎松浦武四郎 ―アイヌ民族を愛した探検家―

  • 青土社 (2019年7月30日発売)
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松浦武四郎を主人公にしたNHKのドラマが面白かったので、ちょっと松浦武四郎に興味を持ちました。幕末おたくとはいえさすがに彼のことはノーマークだったので、こんな人がいたんだ、と。ドラマ化の話自体は随分前に知ったので、松陰先生の書簡集を再読していたときに、松浦武四郎(竹四郎になってたかな)の名前が出てきて、おや、松陰先生とも交流あったのかな?と検索したら頼三樹三郎と親友だったらしいので、なるほどその繋がりかと。

松浦武四郎は文化15年(1818年)生まれなので、幕末の著名人の中ではかなり年長組。世代の近い頼三樹三郎(1825年生)や梅田雲浜(1815年生)そしてひとまわり年下だが松陰先生(1830年生)らは、ほとんど安政の大獄で刑死しているので(井伊直弼は1815年生)、武四郎も、もし途中で方向転換せずに志士活動に熱中していれば、安政の大獄で捕えられていたかもしれない。

ドラマはいきなり蝦夷地にいくぞー的な感じで始まっていたので、武四郎の経歴が全くわからなかったのがちょっと不満だったのだけど(80分ちょっとじゃ尺が足りなかったんだろうけど)その辺は大分これ1冊で補完されました。諸国からの参拝客でにぎわう伊勢街道沿いの郷士の家に生まれ16才で家出、諸国放浪して九州で出家したりしつつ、蝦夷地調査に目覚める。なぜ蝦夷の調査を始めたかというのは具体的にこの本ではわからなかったけど、おそらく頼三樹三郎や松陰先生との交流を考えれば当時の尊皇攘夷ブーム=海防論(対ロシア)からの流れだろう。

基本的に武四郎という人は、オタク気質なのだと思う。ひとつのことに没頭したらひたすら究めないと気が済まない。ゆえにもともとは攘夷=海防のために始めた蝦夷地調査だったのに、全部自分で踏破する、地名調べる!ってやってるうちに調査そのものが楽しくなってしまい蝦夷おたくとなり、協力してくれたアイヌの人たちと交流するうちに全部のコタン調べる!と今度はアイヌおたく化、アイヌに対する迫害(男性は労働力として女性は性的に)に憤りヒューマニストとして目覚め、彼らを助けるために幕府に献策、松前藩を敵にまわして命を狙われたりもしてしまう。もはや何活動家かわからない。

で、結果、先にも書いたようにいわゆる尊皇攘夷の志士としては活動がズレてしまったため、幕末に死なずに済んだのでしょう。蝦夷地にめっちゃ詳しいやついるよー的な感じて、幕府からも明治政府からも蝦夷地の仕事を任され、ついに北海道の名付け親となる、と。

それにしても歴史読本じゃなくてユリイカで特集されているのが不思議だったのだけど(執筆陣にも北海道出身でアイヌについての小説もある池澤夏樹はまだしも、高橋源一郎や奈良美智は意外だった)高橋源一郎がアルフレッド・クローバー(アーシュラ・K・ル=グウィンの父親で文化人類学者)や、宮沢賢治、南方熊楠と武四郎を比較していて、わかりやすかった。活動家というより探検家であり、民俗学者であり、文化人類学者であり、まあなんていうか、なんにせよ一種の奇人の類なので熊楠と同類と思えばユリイカも納得。

あと絵が上手い!ドラマでも実際の武四郎の絵を使ってあったのだけど、すごく味のある可愛らしい絵で、これをさらさらと、クロッキー帳みたいな帳面に書きつけてたのだから相当なデッサン力ではないかと。本書にもたくさん収録されていて楽しい。まあそのうち余裕ができたら、関連本を読んでみたいと思います。えっとまずはゴールデンカムイあたりから?(笑)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ◆幕末(小説以外)
感想投稿日 : 2019年8月12日
読了日 : 2019年8月11日
本棚登録日 : 2019年8月6日

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