雪姫: 遠野おしらさま迷宮

著者 :
  • 兼六館出版 (2010年9月1日発売)
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本棚登録 : 57
感想 : 17
3

たまたま見つけたので久しぶりに寮美千子さんの本を。今でもこのひとのパロル舎からでた初期の3作(小惑星美術館、ラジオスターレストラン、ノスタルギガンテス)は傑作だと思いますが、正直これはちょっとイマイチだった。

遠野の伝承を物語に絡めてあるのは面白かったです。オシラサマはもとより、河童や山男、座敷童、そしてイタコの紅絵さんが語る物語など。序盤、主人公が遠野にむかって旅立つ列車の中でエスペラント語の話を聞くのも、本筋とは関係ないながら興味深く読めたし(山高帽にコートの紳士は宮澤賢治のイメージなのかな?)

オシラサマに呼ばれるように遠野に迷い込み、閉ざされた世界から出られなくなった主人公がそこから開けてはいけない座敷を開くあたりまでは、面白かったのだけれど、最後の最後でやや唐突に、主人公の前世の話になり、輪廻転生して何度めぐりあっても結ばれない恋人が現れ(海のオーロラか!)、それまでの母と娘の因縁話や遠野の伝承などとの関連が全部ふっとんで、単にやっと運命の恋人と結ばれましためでたしめでたし・・・な終わり方は納得いかず。急に人魚の肉だの輪廻だの盛り込まず、遠野の伝承、母と娘の物語として決着をつけてほしかったです。

もとが児童文学の人だけに、語り口は子供向け風なところもあるのですが、後半明かされる主人公の祖母の凄惨なエピソードなどは子供には読ませられない内容で、そんな凄惨な事件を経て生まれた母、その母から連なる娘、という血の物語をあれだけ紡ぎあげておきながら、最後のオチは輪廻転生=血縁関係なし、というのもあんまりだったと思う。どうしても恋愛ものとしてオチをつけなくてはならない理由でもあったのでしょうか?結果、誰にむけて(どういう読者層にむけて)書かれたものなのか、しっくりこない部分が多かった。

あと、突然主人公を解雇した「所長さん」がくれた「ソウルメイトとめぐりあえるパワーストーン」的なものを、主人公が後生大事にお守りとしているのも、全体のトーンと食い違っていて若干違和感を覚えました。物語の展開上、お守りアイテムとしては母の形見のお手玉というものがあるのに、遠野という神秘の場で、さして親しくもなかった職場の上司がくれただけのハート型のピンクのパワーストーンが自分を守ってくれる?というのは非常に不自然。オシラサマや河童、座敷童という言葉と「ソウルメイト」という言葉が並んだときのこの違和感・・・。

総じて、せっかくの魅力的な題材を、オチのつけかたで台無しにしてしまった勿体ない印象が残ってしまいました。細部は魅力的だっただけに残念。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >やらわ行
感想投稿日 : 2015年1月28日
読了日 : 2015年1月27日
本棚登録日 : 2015年1月26日

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