まったく誰もが自意識なんてものを持っていると思いこんでしまったせいで、人生に絶望しなくちゃいけなくなってしまったんだ。
左右は山並み、南は無人の谷、北はタタール人の砂漠、空漠とした大地に囲まれた年経りた孤島のような砦に赴任する将校ドローゴ・ジョバンニの一生。
はじめは自分が何者かであると信じていたはずなのに、何ごとも起こらないまま、自分がなるはずだったものから遠くかけ離れた時間がただただ逃げ去っていく。
ほとんど事件らしい事件も起こらないんだけど、ドローゴの自信を英雄と同一視する幻想は僕自身の幻想とも相まってなんともやり切れないし、それだけに一気読みしてしまった。
未来があるなんて思わなければ、今あるもので十分に満足できるはずなのに、先には希望があるかもしれないという期待を一度持ってしまったがために、決してもとに戻ることなんてできない。
「英雄的な、あるいは甘い望みに心が踊りはじめ、先で待っているいろんなすばらしいことを前もって想像裡に味わうのだ。それはまだ視野にはない。だが、いつかそこに辿り着けることは間違いないのだ。それは疑う余地のないことなのだ。」
これが↓
「ただ一度でいい、本当の戦闘があればいいのだった、軍服に身を飾り、謎めいた顔をした敵兵に向かって突進しながらも、不敵な笑みを浮かべることさえできればいい。ただ一度の戦闘を、そうすれば、おそらく、あとは一生満足することになるだろう。」
こうなって↓
「彼は栄光の星のもとに生まれてきたのではないのだ、彼は幾度となく愚かにも欺かれてきたのだった。なぜー彼は腹立たしい思いで自問したーなぜまたも欺かれたりしたのだろう?こんなふうになることは最初からわかっていたのだ。」
こうなる↓
「つまり、世界はジョバンニ・ドローゴなどなんら必要とせずに動いているのだ。」
「もしかすると自分は本当に道を誤ったのではないだろうか。もし自分がありきたりの運命しか与えられないありきたりの人間だとしたらどうなるのだろう?」
「過ぎゆく時に対する漠とした不安が日々につのるとはいえ、ドローゴは大事なことはこれから始まるのだという幻想になおもしがみついているのだった。ジョバンニはいまだ訪れない自分にとっての運命の時を辛抱強く待ち続けて、未来がもうひどく短いものになっていることには思い至らない、もう以前のように将来の時間が無限にあり、いくら消費しても心配ないほど無尽蔵だと思うことはできないのに。」
- 感想投稿日 : 2015年1月25日
- 読了日 : 2015年1月25日
- 本棚登録日 : 2015年1月25日
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