奇跡の災害ボランティア「石巻モデル」 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2011年10月13日発売)
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感想 : 20
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最初に、この本はIT系エンジニアにもぜひ読んで欲しい(理由は後述)。
本書では、石巻市は、殺到する個性豊かなボランティア団体をまとめる体制をうまく作ることのできた成功例であるとして紹介されている。阪神大震災と異なる点は、まず、阪神大震災がボランティア元年と呼ばれ、後にボランティア迷惑論が生まれるなど、ボランティアに対する社会的な意識が大きく異なっていたこと。次に都市から離れた非常に広域な津波災害で、通常の災害援助に比べてカバーしなくてはいけない地域が多く、また行政機能そのものが完全に失われた自治体が多かったことである。これら二点をふまえつつ、なぜ石巻市が他の自治体に比べてボランティアを活用できたのかを述べている。基本的には、目的も異なる個性豊かなボランティア組織を対立させず、1つにまとめて機能するための組織化を進め、ロジスティックスの無駄を減らすようなさまざまな工夫を盛り込んでいったことが、ボランティアを活力にできた要因であった。また、震災の直前に石巻にある大学と防災協定を結ぶことになっていたこと、被災地入りしたボランティアの数が多く、最終的には自衛隊も中央官庁もその力を認めざるを得なくなった、というのも背景にはあるようだ。ボランティアによる活動に加えて、本書の後半では、機能的に活動した企業の例(アウトドアメーカーや、製造業)が挙げられている。企業のCSR担当者は心して読んだ方が良いだろう。この中で、気になったのは、震災後さまざまな情報集約サイトなどができたが、現場で役立つ物はなかった、そういうものを作る技術者は現場に来ない、という批判である。一方、企業のボランティア活動で現地入りしたある製造業の工場エンジニアは、危険作業の経験を生かして瓦礫やヘドロの除去作業に役立つようなアイデアを出したという。エンジニアの生き方も問われているような気がした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会問題・政策
感想投稿日 : 2013年4月13日
読了日 : 2013年2月16日
本棚登録日 : 2013年4月13日

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