デルスウ・ウザ-ラ: 沿海州探検行 (東洋文庫 55)

  • 平凡社 (1965年11月1日発売)
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感想 : 10
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「あなたの本を私は大きな楽しみをもって読みました。疑いもなく重要な科学的価値については言うまでもなく、私はその表現力にひきつけられたのです」
というゴーリキーの一文から始まるのは、先住民の知恵を手がかりに、シベリアの厳しい大自然をゆく、長き旅路である。

ゴーリキーの指摘通り、19世紀後半から20世紀にかけて生きたロシアのアルセーニエフが、士官、探検家、博物学的興味、そして文筆家として、その魅力を発揮したのが本書である。シベリアの沿海州のタイガを、先住民族であるナナイ族の孤高の猟師・デルスウ・ウザーラと共に探検していく。アルセーニエフはロシア人でありながら、原住民の知恵や思想を敬い、記述していく姿は非常に貴重である。

この地域には、ウデヘという先住民族もおり、行く先々でウデヘや、ウデヘから「搾取」している中国人の姿が描かれており、とても興味深い。というのも、ウデヘやナナイといった先住民族は、現在ではほとんど絶えてしまっているからだ。本書では、貨幣や詐欺行為に免疫のない(デルスウや)ウデヘが、悪徳中国人の借金地獄の罠にはまり、女性を奪われ同化政策に埋もれていく姿があった。

本編では、アルセーニエフの背景が記述されていなかったが、あとがきを読むと、なぜアルセーニエフが士官でありながら、一隊を率いてタイガを探検できたのかが明らかになる。当時のロシアでは、狩猟や密林歩き、銃の扱いに長けた志願兵を「狩猟部隊」として、普段は自由に山野を歩き回らせ、有事には偵察や道案内に活用したという。このような「山野歩きのプロ」である兵たちですら、先住民の知恵には及ばなかったということを知ると、アルセーニエフの先住民への敬いに頷けるであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 民族・文化
感想投稿日 : 2014年2月23日
読了日 : 2014年2月23日
本棚登録日 : 2013年5月11日

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