坂の途中の家

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2016年1月7日発売)
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本棚登録 : 2292
感想 : 329
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女性、特に子育てを経験した母である方が読むと、ちょっとしんどいかな(読むとどっと疲れが出たというレビュー多数)と思いました。ワタシも同じく。

乳幼児の虐待死事件の刑事裁判の補欠裁判員に選ばれてしまった梨沙子。彼女も3歳になる娘の子育てに悪戦苦闘する毎日であったので、被告の女性、水穂に自分を重ねつつ、公判は進んでいく。

余談ですが、ワタシはSNSでは、あまり育児系のアカウントが少し苦手です。声高にウチの育児ってこうよ! ウチの子こんな感じ! 凄いでしょ!的な発言を見ると、個人的にどっと疲れてしまうので…(もちろん例外の方もいらっしゃいますし、勝手にワタシが発言読んで疲れると感じるだけなので他意はなく、個人的な好みだと思って下さればいいです)

描かれた育児のエピソードでは、母乳が出る、出ないのあたり、ワタシも似たようなことで四苦八苦したので、なんだか懐かしかったり切なかったり…これも過ぎし日の思い出になってしまったので今は冷静に語れますが、当時はよく泣きべそをかいていたなぁと思い出します。

この小説で描きたかったのは母性ではなく、家族というそれぞれ違った主観をもった個人同士の集まりの中で、何が「普通」なのか、何が「幸せ」なのか、お互いの「人の愛し方」がどう違うのか、なら落とし所はどこなのか、という難しさを抱えているのだ、という事実なのではないかと思います。
それに気づいたときに、ちょっとゾッとしました。

傍目からみたら全く問題のない、「あら、そんなの、よいご主人(お姑さん)じゃないですか」と言ってしまいそうな、夫や義母のおだやかな暴言というフレーズが本当に怖かったです。
でもあるんだろうな、こういうのって。
ワタシは幸か不幸か言葉通りにしか受け取らない鈍感な人間なので、気づいていないだけで、敏感な人だと本当に柔らかな牢獄にいるような感じなのかもしれませんね。
でも、もし自分がそれに気づいてしまったなら…この小説の恐ろしくて悲しいところはそこなのかもしれません。

主人公の梨沙子のこれからは、この小説ではあえて描かれていませんでしたが、どうか彼女が柔らかな牢獄から自由になれていまように、と思わずにはいられません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年1月25日
読了日 : 2017年1月25日
本棚登録日 : 2017年1月25日

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