機動戦士ガンダムUC (10) 虹の彼方に (下) (角川コミックス・エース 189-12)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年8月26日発売)
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感想 : 41
5

ガンダムを一つの歴史としてとらえるならば、この作品は福井晴敏という作家によるその歴史への答えだと思う。

基本的に宇宙世紀のガンダムシリーズは、社会のシステムやエゴに飲み込まれ、時に大義のために、時に平和のためにと殺しあうオールドタイプに、人と人の分かりあえる可能性を示すニュータイプが一筋の光を指し示す、という流れが基軸となっている。
分かりあえるはずなのに分かりあえず流れる血。
そして時が経てば繰り返される戦争。
そのような閉じた円環の繰り返しの果ての物語が、このユニコーンだった。
よって、それまでに紡がれてきたガンダム史への理解、すなわちガンダム・リテラシーがあればあるほど、また人生が苦いと思った人ほど楽しめると断言する。




人は善意のもとに成り立つ生き物だ。

根本的には人は自分に降りかかる理不尽をさけたい、もっと住みよい世の中を作りたい、という欲望という名の善意に突き動かされて行きていく。
しかしそれが集まり、巨大になるほどに、互いの善意はすれ違い、それはやがて呪いや怨念の渦を生む。
そしてエゴを原動力とした遺伝子という螺旋の輪を紡ぎ、退行を繰り返しながらも、血にまみれながらも、闇雲にゆっくりと前進する。
その営みは時に目をそむけたくなるほどに醜いものだが、それが人の営みであり、生きる力である。



そんな人間の営みに可能性を示すのが、理解しあう能力を拡大させた宇宙人類、ニュータイプであるとしたのは富野監督だった。
そしてそれに加え、究極のニュータイプは人間の持つ遺伝子の、肉体の螺旋からの脱却であるとしたのが福井晴敏の答えだった。

終劇、主人公は、その彼岸たるニュータイプへの革新を遂げようとするが、人とつながり続ける醜くも泥臭い世界を選んだ碇シンジのように、彼は人間の生臭くも温かい肉体の世界に戻ることを選ぶ。

どのような理不尽に行く手をふさがれようとも、それでもよくあろうと普通の人間がもがき、生を全うする姿が一番美しいのである。
そうあろうという理想への願いがユニコーンのような空想や願いを育て、人の歴史を連綿と紡いでいくからだ。



物語を核とした作品は衰えない。
なぜなら消費されて朽ちる一過性の画像ではないからだ。
群像劇や強烈なメッセージは時を超えて人の心にしみいるものだ。

その点、ガンダムサーガは成熟期を迎え、青少年の情熱から大人の生きる渋みを描く段階に入ったといえるのではないだろうか。
新世紀エヴァンゲリオンはこの15年間のアニメ史をあざ笑うかのようにBD初動最大売上をたたき出すことだろう。
まだしっかりと読めていないが、変わらない情熱とさまざまな人々の思いを詰め込んだ大河マンガになりつつあるワンピースもまた然り。


一方でアニメに限らず、最近の物語が物足りない理由は、伝えたい主題のもろさと二番煎じの多さ。
ネコミミや、ツンデレ、無口な少女といった萌え要素、萌え属性といったキャラクターの直接的な消費に終始することによる違和感。
ドラマでも突然人を殺して涙を誘ったり、脈絡もない運命を演出してきな臭い展開を繰り返す。

言葉は、気持ちのこもった筋の上に語られなければただの記号だ。

その言葉を最大限に生かす新たな物語の誕生を、待ち望んでやまないのは僕だけだろうか。

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感想投稿日 : 2010年5月11日
本棚登録日 : 2010年5月10日

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