スクールカーストの正体: キレイゴト抜きのいじめ対応 (小学館新書)

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  • 小学館 (2015年10月1日発売)
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■スクールカーストの決定要因は「コミュニケーション能力」
■昨今,リーダー生徒が不登校に陥る事例が増えている。
■現代の生徒たちは「自己主張力」「共感力」「同調力」の総合力としての「コミュニケーション能力」の高低を互いに評価し合いながら自らの「スクールカースト」の調整に腐心しているとみてよい。
■「スクールカースト」は別名「学級内ステイタス」と呼ばれる。
■自己主張力:自分の意見をしっかりと主張でき,他人のネガティブな言動・態度に対し戒めることのできる力。
■共感力:他人に対して思いやりを持ち他人の立場や状況に応じて考えることのできる力。
■同調力:「場の空気」に応じて常に明るい雰囲気を形成する能力。現代的なリーダーシップには不可欠と考えられており,現実的には最も人間関係を調整し得る能力。
■8つの現代的生徒像
①スーパーリーダー型生徒(自己主張力・共感力・同調力のすべてを持つ)
②残虐リーダー型生徒(自己主張力・同調力を持つ)
③孤高派タイプ生徒(自己主張力・共感力を持つ)
④人望あるサブリーダー型生徒(共感力・同調力を持つ)
⑤お調子者タイプ生徒(同調力のみを持つ)
⑥いいやつタイプ生徒(共感力のみを持つ)
⑦自己チュータイプ生徒(自己主張力のみを持つ)
⑧何を考えているかわからないタイプ生徒(自己主張力・共感力・同調力のどれも持たない)
■「スクールカースト」を決定する要素として自己主張力が大きく作用する要因は,時代の変化と教育の成果が自己主張力を重視する生徒たちを創出した。
■コミュニケーション能力は空気に乗ることが前提とされ,そこからの逸脱は決して許されない。おそらく生徒たちにとって,それが「同調力」。
■「空気をつくる力」,「場を支配する力」
■「⑦自己チュータイプ生徒」と「⑧何を考えているかわからないタイプ生徒」がいじめの被害者になるリスクが高い。
■学級担任が「残虐リーダー型生徒」を押さえられない場合,残虐リーダーに同調し,「お調子者タイプ」の生徒たちの中からいじめや学級崩壊に中心的な役割を担うものも出てくる。「お調子者タイプ」の生徒たちがどういう動きをするかが,現在の学級運営の成否を決めると言っても過言ではない。
■相手から反感を買わないよう常に心がけることが,学校という閉鎖空間で日々を生き抜いていくための最も大切な知恵として強く要求されている。
■生徒たちの人間関係を構造的に把握しようとする志向性を持っている教師ならば,学級集団を構築する「教師-生徒たち」という人間関係の在り方と,生徒たちの小グループのような「生徒-生徒」間の人間関係の在り方との違いを明確に分けて捉えることができる。
■「スクールカースト」が根性さえあれば逆転可能であり,いざとなったら転向することもできるというのは暴論。
■「コミュニケーション能力」の高さは頭の良さ,いわゆる「地頭」の良さと相似形をなしている。
■学力が低い者ほど学力が低いことに自己肯定感を抱く現実が指摘されている。そもそも学力海藻の生徒たちには,自らの学力を高めたいという意欲自体が欠落している。
■学校生活における「表文化」と「裏文化」。基本的に両文化は相いれない構造を示す。
■一生懸命取り組みたい者とそうでない者との間で最も軋轢を生じやすいのが合唱祭。
■2000年代半ばころからの学校教育のサービス業化の風潮以来,現在は教師の子どもたちに対する過保護化が常態化しつつある。この傾向をつくったのが保護者クレームの流行。
■学校教育が「生徒を育てること」「生徒を高めること」よりも「保護者からクレームをもらわないこと」を基準に動くようになった。
■学校現場から「父性的な指導」が姿を消し「母性的な指導」ばかりが見られるようになった。この傾向は今もなお急激に進み続けている。
■「スクールカースト」と呼ばれるようなグループ形成はあくまで昨今のものであり,学校が「父性原理」ではなく「母性原理」で動くようになった時代のグループ化。
■「父性原理」は対立を旨とし,生徒たちの前に壁として立ち塞がり,それを超えさせることで生徒たちを育てようとする。「規律訓練型権力」(ミシェル・フーコー)の発動もこれに当たる。
■「母性原理」は相手を受け入れ,調和することを旨とする。「規律訓練型権力」を発動して鍛えるのではなく,「環境管理型権力」を発動し包み込むことを旨とする。
■「スクールカースト」によって形成される小グループとは,「母性原理」による動き方を生徒同士で行おうという原理に見える。無条件であなたを承認する代わりに,あなたも無条件で私を承認してねというある種の共依存性。ともかくグループ内で「優しい関係」が維持されることを優先させる。
■学級集団や学年集団にかつての特別活動が目指したような一体感を創造できるのは体育大会,球技大会,学校祭・文化祭という非日常空間だけ。
■「社会的共通資本」とは「一つの国ないし特定の地域に住む全ての人々が豊かな経済生活を営み,優れた文化を展開し,人間的に魅力ある社会を持続的,安定的に維持することを可能にするような社会的装置」
・水,大気,森林などの自然環境
・道路,上下水道,電力,ガスといった社会資本,
・教育,医療,報道,司法といった制度資本
■「高度消費社会」が与えた教育への五つの影響
①世の母親たちに時間をもたらしたこと
②世の母親たちの我が子にかける時間と労力の密度を高めたこと
③高度経済成長後の内需拡大政策が家族を解体したこと
④貨幣に対する価値観のみが異常に肥大化し,労働の公共性に対する意識が急速に縮小したこと
⑤高度経済成長後の急速な産業構造変化の常態化が知的な仕事,創造的な仕事の価値をそれまで以上に高めたこと
■「母性型教師」の指導の特徴は,先ずはともかく被害者側に寄り添うことから始まる。事実確認は「父性型教師」のように徹底しない。
■「父性型教師」の指導は「強者の論理」で進み,「母性型教師」の指導は「弱者の論理」で進む。
■「父性型教師」の指導は,政治的であり,規律訓練的であり,性悪説に基づいているとも言える。
■「母性型教師」の指導は,心情的であり,環境調整的であり,性善説に基づいているとも考えられる。
■いじめの指導は,
①事実関係を細かく確認し,いじめの事実の全体像を明らかにする。
②確認された事実に基づいて適切に指導する。
③これで解決と考えずに時間をかけてフォローとケアを心がける。
■一般に指導力がある「カースト」が高いと言われる生徒指導系の教師たちは,おとなしい子,精神的に弱い子,依存性の高い子に対する指導を得意とはしていない。学校にこうした教師だけしかいなくなってしまったら,学校は不登校生徒だらけになりかねない。
■教師の三つのタイプ
・父性型教師:生徒たちに悪いことは悪いとしっかりと伝えられるタイプの規範重視型教師
・母性型教師:悩んでいる生徒を優しく包み込むようなタイプの寄り添い重視型教師
・友人型教師:生徒たちと気さくに話し,色々なことを一緒に楽しむタイプの生徒同化型教師
■学校は父性型教師が大きく影響力を持っている組織。
■学校はもはやチームで動かなければ運営できない。
■学校教育制度を維持していくための三つの意識改革
①学校側が協働の意識を持つこと
②学級担任制の弊害を緩和すること
③保護者(=世論)が教師個人への期待以上に学校の組織力の方に期待するという姿勢を身に付けること

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年6月12日
読了日 : 2016年6月9日
本棚登録日 : 2016年6月9日

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