パッシング・チャイナ 日本と南アジアが直接つながる時代

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  • 講談社 (2013年3月1日発売)
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感想 : 8
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以前、アメリカが日本をバッシングするのを諦めて「パッシング(通過)」するようになったという本を読んだことがありますが、この本のタイトルは私にそれをイメージさせました。この本の著者である熊谷氏の本は初めてですが、年齢も私と同世代であり、育ってきた環境が似ているので新たな切り口があるのではと思い期待しながら読みました。

10億人を超える中国市場は確かに大きいですが、購買力のある消費者層で考えると、アジアの他の国々(タイ・インド・ベトナム・インドネシア・ミャンマー)も十分に魅力があり、「チャイナプラスワン」を考慮する必要があると筆者は述べています。また、中国と異なり、日本に対する良いイメージを持っているという点でも魅力があるようです。

あと10年は中国の重要性は変わらないとは思いますが、それ以降のことを考えるには、熊谷氏の言われている点も見据えて会社経営や社会人生活を送る必要があると痛感しました。

ただ、文章による解説が多く、それを裏づけする定量的なデータを示すグラフが無かったのは残念でした。

以下は気になったポイントです。

・2012年のわが国の輸出の内訳を見ると、ASEAN向けのシェアが16.2%と、中国向けの18.1%に迫っている(p3)

・万世一系の天皇をいただく日本と異なり、儒教などの伝統的文化が引き継がれていない(王朝・民族・言語が異なる)中国を4000年というのは無理がある(p31)

・中国では、都市と農村の資産格差は、平均値同士で10.2倍開いている、上位10%が金融資産・収入の6割、総資産の8割を保有している(p35)

・中国政府は、治安維持に軍事費を上回る7018億元(9兆円)の予算をあてている(p37)

・共産党には3つの派閥があり、1)胡錦濤、温家宝(第4世代)の共青団、2)江沢民、朱鎔基(第3世代)の上海閥、3)習近平・李克強(第5世代)の太子党がある(p49)

・7名の政治局常務委員会、25名の政治局員、205名の中央委員のメンバーや、68歳定年制を考えると、江沢民と胡錦濤の痛み分けとなるだろう(p53)

・中国で重視できる数値は、電力消費量・鉄道貨物輸送量・銀行融資の3つである(p69)

・自動車業界や鉄鋼業界の設備過剰は極めて深刻、自動車生産能力は4割過剰、粗鋼は2億トンも需要(7億トン)を上回っている(p81)

・日本で活躍する中国経済専門家は、中国人・日本人を問わず、経済学ではなく語学を専攻した人間が多いので、感覚的議論が多く定量的な分析が少ない(p87)

・南アジア全域に生産拠点を分散したうえで、各拠点が状況に応じて柔軟に最適の生産体制を維持できる仕組みを作るのが「チャイナプラスワン」である(p103)

・ASEAN 10か国の総人口は6億人を超えて、EU 27か国(5億人)よりも多い、人口構成は若年層が多く、都市人口の比率も高まっている(p115)

・日本を好きと答えたのは、ベトナム・フィリピン・タイ・インドネシア・シンガポールが90%以上、嫌いと言っているのは、韓国(64)中国(45)である(p116)

・加工組立産業が生む付加価値は低下傾向にある、コモディティ化の荒波にさらされやすいので、これを「保守・サービス産業」と組み合わせることで値崩れを防ぐ(p187)

・1901.1.2の報知新聞に「20世紀の予言」という特集記事が掲載され、23項目中17項目が実現している(p193)

・中国がレアアースの輸出を制限したことで、豪州・米国からの調達を開始して、輸入比率は5割を下回った。資料量削減や代替品開発の効果もある、また海底でレアアースを含む泥が堆積していることを確認した(p254)

2013年5月11日作成

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 中国・中国語
感想投稿日 : 2013年5月11日
読了日 : 2013年5月5日
本棚登録日 : 2013年5月3日

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