ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

4.26
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本棚登録 : 6873
レビュー : 939
著者 :
tamamiさん SF   読み終わった 

ラスト、涙が止まらなかった。悲しいなんて一言も書いていないのに、「ある意味でハッピーエンド」と著者も言っているのに、なぜこんなに悲しいのだろう、悲しいというよりもっと深く、喪失が空を覆い尽くして、心臓を手づかみで揺すぶられるような痛みが息つくたびにこぼれ出る気がする。
ラストシーン、ミァハと対峙する場面、その結末は、言ってしまえば類型的だし予想の範囲内。でもそれでも平気だし、へんな小細工する必要なかったんだ、この話では、って思う。ミァハが目指していたのは混沌じゃなく寧ろハーモニクスの方だ、と知れたときの衝撃、それだけで。
「さよなら、わたし」と、わたしがnull値に帰す瞬間、トァンが感じたせつなさが、クロウカシスの白い雪の落とす灰色の翳が、きっとこんなに痛いのだろう。
なくてもいいもの、進化の過程でたまたま残ってしまったもの、他のものすべて外注に出した以上邪魔でしかないもの、意識。
トァンとヌァザたちが固執したのは私には分かるし、今の人間たちはきっとみんなそう。だけどスイッチを押したら、何が残る? そう思っていたことに何の意味がある?
その問いかけが宙に浮かぶからせつない。ミァハが、それでも自身の壊そうとする世界を愛していたことも、パラレルな同じ大きさのベクトルとして悲しい。(ならば重なるの?)

伊藤計劃のSFは、根本的な問題、主題というものが非常にクリアに言い切られている物語だなぁと感じる。「虐殺器官」もそうだった。受ける雰囲気が非常に似ていて間違いなく同じ著者だと思う。私は「ハーモニー」の方により衝撃を受けたかな。
これ読んで、ああ、なんで死んじゃったの、って痛感した。Project Itohにはまだ書きたい、書かなきゃならないものがあったでしょって。この2作だけじゃ書き切れなかったでしょって。本人は「今の時点の限界」と言ったらしいけど、そのギリギリさがこんなに涙をこぼさせるのかな。

レビュー投稿日
2013年1月24日
読了日
2013年1月23日
本棚登録日
2013年1月23日
3
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