ユリイカ 2016年11月号 特集=こうの史代 ―『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』『ぼおるぺん古事記』から『日の鳥』へ

  • 青土社 (2016年10月27日発売)
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感想 : 9
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ちゃんと批評を読むと勉強になるなあマジで。素人とはレベルが違う。日頃見かけるTwitter名人程度で満足してるべきではないかも。たまにはね。
中田健太郎さんと吉村和真さんの批評がかなり重要だと思う。
細馬宏通さんとさやわかさんと田中里尚さんは目の付け所がシャープ。

以下、参考になった部分を書き出し。
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◆対談 こうの史代×西島大介…映画や漫画について争点になってる「どういうつもりで描かれたのか」といういくつかの疑問に作者が直接答えているのでとりあえず読むとよい。
・原爆の話ばかりに食いつくひとにすごく抵抗がある。
・原爆ものだけで戦争を語るのは不十分。
・戦争のわくわく感も描いている。(あっという間にメタメタにされてしまう)
・お涙頂戴は嫌い。
◆細馬宏通…漫画雑誌でマンガを読むこと。「この世界の片隅に」が連載漫画という形式を大いに活用していたという話。全く同じコマ割りや構図が反復して登場し、前回との対比になっているというような驚きの技法の数々。
◆雑賀恵子…難易度が高めの伏線を拾ってくれる解説。当時の公的記録をもとに庶民をとりまく社会環境も丁寧に説明している。
◆紙屋高雪…映画公開後に一部で議論になった「この物語は反戦ものか、反戦ものではないのか」についてのまっとうな論考。正直ネット上でこれが「議論」として取り上げられたのは低次元な話だなあとも思ってるけど。
◆インタビュー 片渕須直…他媒体でも語られている内容は多い。
・戦争体験者のオーラルヒストリーだけに依存するべきではない。
・リンさんの話をカットした理由。
◆土居伸彰…他の作品との比較。人間のさみしさについて。
・「風立ちぬ」や「君の名は」、「かぐや姫の物語」との違い。
・ノーマン・マクラレンについての言及。映画版の白眉ともいえる場面の説明。
・ノルシュテインについての言及。彼の発したかなり重い問いかけについて。
◆インタビュー のん…インタビュアーがちょっと喋りすぎる。
・「キャラメルの味が広がった」について言及。当時の結婚観への拒否反応が出てる人が見落としている点。のんさんボーっとしてるように見えて大抵の一般人より洞察力鋭いよ。
◆中田健太郎…敵と味方という安易な二元論に対する批判。こうの史代作品の政治性。
・被害者/加害者という関係性を安易に固定させまいとする態度。
・戦争責任の問題が描かれないことについてのこうの史代の回答。
◆吉村和真…「夕凪の街 桜の国」および「この世界の片隅に」の危うさ。
・井伏鱒二「黒い雨」との類似性。特に大衆の受け入れ方について。
・政治性が忌避され、日常性が称揚される現象。
・これらの作品を読むとき、共感の手前で踏みとどまる必要があるのではないか。
◆さやわか…こうの史代作品と「萌え」の関連性
・「この世界の片隅に」について「日常系」と言われることがある所以とその距離感が上手に説明されている。
◆田中里尚…こうの史代作品の記録性について。膝を打つ視点。細かな考証は「リアリティ」だけではなく、「記録」という側面が強い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 批評
感想投稿日 : 2017年1月29日
読了日 : 2017年1月29日
本棚登録日 : 2016年12月29日

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