戦争と平和(一) (新潮文庫)

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本棚登録 : 1131
レビュー : 58
著者 :
制作 : 工藤 精一郎 
yomikaさん 海外古典   読み終わった 

「その物語は敗戦から始まった。」

19世紀初頭のロシア。人々はヨーロッパを席巻するナポレオン軍の勢いに脅かされていた。開戦前夜のペテルブルク上流社会からアウステルリッツでの敗戦までの前線を舞台に、そこに生きる人々を描く。

 夜会や舞踏会のさんざめきの陰で繰り広げられる、貴族たちの駆け引きや根回しから幕が開く。息子をより高い地位で仕官させるのに必死なドルベツコーイ公爵夫人、莫大な遺産を持つズウーホフ伯爵の臨終の枕元で跡継ぎ問題を画策するワシーリイ公爵や親戚たち。ロシアの上流社会ってなんだか、お金や保身に汲々とする現代の会社組織みたいである。

 そうした大人たちの中でこれから話の中心になっていくだろう貴族の子弟たちは、まだまだ初々しい印象だ。庶子でありながら大人たちの思惑で引っ張り出されるままにズウーホフ伯爵の跡を継いだピエール、ロストフ家の令嬢として苦労も知らずのびのびとおしゃまなナターシャ、その兄で皇帝への忠誠心にあふれ前線へ出征したニコライ、身重の妻を実家に預けロシア軍司令部の一員として前線へ赴いた若き貴公子、アンドレイ公爵。アウステルリッツで敗戦を喫したロシアで、彼らは果たしてどのような人生を歩むことになるのか。

 後半は一転ロシア・オーストリア連合軍VSナポレオン率いるフランス軍のオーストリア戦役の前線が舞台となる。アレクサンドル一世、フランツ一世、ナポレオンの皇帝はじめ上級の将軍から下級兵士までのエピソードが散りばめられたこれはほとんど戦記物語。二部、三部はピエールの結婚話を除くとほとんど戦争話となるため、大河小説として読むには興味がないとちょっと苦しい山となる。

 ここで気になるのはアンドレイやニコライをはじめ、ロシア軍の兵たちが多分に「戦争ハイ」になっていること。帝政ロシアで仕官する者のこれがスタンダードなのかもしれないが「はじまったぞ!これが待望の戦争なのだ!」という高揚が全軍にみなぎっている。まあだからこそ、ブラッツェン高地で血の海に倒れ戦争の実体を身をもって知ったアンドレイが、空の蒼さの前に全ては小さなことだという境地に至る場面が生きてくるわけだが…。

 そう考えると戦争の記述は確かに長く苦しい山なのだが、これを越えてむしろいよいよ物語が動き出す予感がする。「戦争と平和」第一巻は壮大な序章なのかもしれない。

レビュー投稿日
2013年9月16日
読了日
2013年9月16日
本棚登録日
2013年9月16日
3
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