Yの悲劇 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (1959年8月30日発売)
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文庫本の分厚さに慄き、なかなか手を伸ばせなかった『Yの悲劇』。5月のGW中に手に取ったが、一度読み始めると止まらず、真夜中から朝方までかけて一気に読んでしまった。文句なしに面白い‼︎

『Yの悲劇』は一言で言うと、惜しみなく食材が使われた、見た目も豪華なフルコース料理だ。お腹いっぱい、大満足になる。本の裏表紙に書いてある紹介文からだけでも、「行方不明」「富豪の死」「海からあがった死体」「毒物死」「一族に遺伝する病気」「繰り返される殺人」「有り得ない犯人」…推理小説に似つかわしいキーワードがてんこ盛り。

事件の舞台となるハッター家は、お金持ちであるが、性格に難ありな人物ばかり、家庭内でトラブルが起こってばかりの誰一人幸せそうじゃない一家。物語冒頭に起きる富豪の死だけではなく、その後に別の殺人が起こり、犯人のものと思われる痕跡が、たくさん見つかるのだが、それがかえって推理を混乱させる…。手がかりがあっても明快な答えが見つからないもどかしさ。おまけに探偵や警部の鼻先で、手際の悪さを嘲笑うかのように次の事件が起こってしまう。

一体どんな犯人が?

物語には、盲目で耳が聞こえず、話すことのできない女性が登場するのだが、その彼女が危険に晒されたり、覚悟を決める場面があり、とてもスリリングで手に汗を握る。(彼女が探偵に訴えるシーンは強烈に印象的だった)

全貌の見えない事件をひたすら根気強く追い続け、ようやく真実に辿り着いた時、なんともいえない気持ちになった…「悲劇」というのは、こういうところから来ているのか。クリスティー作品でも、似たような意外な人物が犯人の作品はあるけれど、『Yの悲劇』は悲劇が連鎖し、謎が二重構造のようになっていて、より一層複雑な筋立てが面白さを掻き立てる。

また、探偵のドルリー・レーンの前職は、シェイクスピア劇の俳優という設定になっているのだが、そのせいか小説のなかにシェイクスピア劇のセリフが時折引用されて出てくる。こういう趣向はとても好きだ。ドルリー・レーンが主人公のシリーズは四部作になっていて『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』とある。『Yの悲劇』から読んでしまったが、前作を読んでなくても十分楽しめた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年6月5日
読了日 : 2021年5月4日
本棚登録日 : 2021年5月23日

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