日本のアートマーケットが1兆円になる日 「日本美術市場再生プロジェクト」始動!

  • 学研プラス (2020年2月6日発売)
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アートオークション事業を運営するシンワワイズホールディングスの現取締役会長の著書。同社の前身であるシンワアートオークションは、日本で公開型アートオークションをはじめた最初期の会社。

日本のアート業界をビジネス・経済・投資といった観点で見られるかと思い、読んでみた。知らない内容ばかりで新鮮だった。
知らない内容ばかりなので、得るものは多かった。バブルの頃に日本初の公開型アートオークションが開催されてから、現在に至るまでのアート業界の歩みや課題、そしてこの先に目指しているものが述べられている。

備忘録兼ねて、箇条書きする。

◼︎日本のアート業界の状況
・日本のアート市場は1990年代初頭のバブル崩壊から縮小を続け、現在では日本の近代美術の取引価格は当時の30分の1にまでなっている。これは欧米や他のアジア圏の国々とは対照的。現在の日本の経済規模を考えると、あまりに小さい。

・アート取引額が小さい反面、日本のアートは世界で大きな影響力を持っている。
 (1)高額で取引される作家が多くいること(草間彌生を筆頭とした現代美術作家、戦後美術として欧米に影響を与えた具体運動に関わった作家)。
 (2)日本が観光国家に変化していくプロセスの中で、ベネッセアートサイト直島をはじめとして、本格的にアートを楽しめる場所ができていること。海外からの集客も良好。

・著者は、日本のアートオークション市場の規模が小さい理由について、「日本のオークションハウスが世界に比べて圧倒的に弱いから」だと述べている。なぜ弱いのかについては、資金力、および人材の不足をあげている。
 →これについては、より具体的に調べてみたい。

◼︎アートの資産性
・アートは資産であり、価格がある。しかし、日本ではアートの資産性について、あまり快く受け入れられていない。単に素晴らしい・きれいという評価ではなく、何らかの基準が与えられる必要がある。その基準のひとつが価格。
 →海外ではアートは資産であり、世代を越えて受け継ぐという考えがある。

・欧米では、アートの価値付けの仕組みが社会の中に組み込まれている。アート関係者(※)がそれぞれの役割の中で、その価値付けを裏付ける構図となっている。ワインの評価システムも同様の例と考えられる。
  ※アーティスト、画廊、キュレーター、研究者、コレクター、マスメディア、批評家、美術館など。

・日本画はアートの頂点のひとつを極めており、欧米の頂点とも引けを取らない。問題は、日本がを取り巻く環境。ゴッホ、モディリアーニ、バスキアが100〜200億円を超えるのに対して、横山大観が10億円にも満たないのはおかしい。

◼︎アートオークション
・日本のアートオークションの歩み。
 - 1980年代まで、日本にはアートオークションというビジネスはなく、アート作品の取引は画商と百貨店が中心だった。
 - 1990年に2つのオークション会社(具体的な社名はないが、恐らくシンワアートオークションと毎日アートオークション)が誕生し、日本初の本格的な公開アートオークションが開催された。
 - その後のバブル崩壊とアート業界冬の時代。
  →バブル崩壊前後の世の中の描写が新鮮だった。

・ギャラリーはアーティストを発掘して世に出す役割(一次流通)を担うのに対し、オークションは既に有名になり価値も安定したアーティストの流通を担う(二次流通)。

・オークションの役割
 (1)価値の再現性
  →オークションで買ったものはオークションで売れる。また、競っていた人がいたという事実が作品の価値への信頼につながる。
 (2)価格の透明性
  →過去の落札記録はインターネット上で見られる。10年後に同じ作品が出品されれば、買いたい人はそれを参考にする。それが価値の再現にもつながる。

 この他、オークションの役割として(3)社交場としてのオークション、(4)広報・メディアとしてのオークション、(5)エンターテインメントとしてのオークションといった役割もあげられているが、日本のオークションはそこまでの域には達していない。(1), (2)の実現に努力している段階。

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読んでいて、熱い思いが読み取れる感じがした。日本のアートは可能性の塊のような気がしてくる。本書の出版は2020年だが、その後4年経ち「日本美術市場再生プロジェクト」はどうなったのだろう?

また、同じアート作品でも評価の固まった近代美術、および作家が存命の現代美術では扱いが全く異なると思う。機会があれば、その点にも注目してみてみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 雑学系
感想投稿日 : 2024年8月29日
読了日 : 2024年8月21日
本棚登録日 : 2024年7月25日

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