八月の銀の雪

著者 :
  • 新潮社 (2020年10月20日発売)
3.74
  • (212)
  • (443)
  • (345)
  • (41)
  • (20)
本棚登録 : 4122
感想 : 406
3

皆さまのレビューで興味を持ち読むことに…
〜科学の揺るぎない事実が、傷ついた心に希望の灯りをともす〜
とあり、科学と小説をどう絡めるのか…という視点で読んでみた

相変わらず冷血な自分はどうしても科学的な内容ばかりに感嘆してしまうため、みなさまのようなレビューは書けないのでそこはお許しを…

敢えて書くまでもないかもだが、著者は地球物理学を専門とし、東京大学大学院で博士課程修了の経歴をお持ちである

「八月の銀の雪」
ベトナム人留学生のコンビニアルバイト店員
普段の仕事ぶりは、要領が悪くお客にストレスを与えてしまうできない店員なのだが…
彼女真の姿は地震研究所に所属するベトナム人留学生
彼女の研究への真摯な姿勢、熱い気持ちがカッコ良い
地球の中心のコアである「内核」は固体(まさに地球の芯である)
そして「外核」は液体
これは地震波のP波とS波の伝わり方の違いによりわかったのだ
そう彼女の強い熱い思いこそが「内核」にぎっしり詰まっているのを感じた

「海へ還る日」
〜鯨は歌う〜
ぜひぜひ聞いてみたい
広い広い海の中で聴いたら…
きっと大きな温かい壮大な何かに包まれる気がするだろう
想像するだけ何とも居心地が良い
お母さんのお腹にいる赤ちゃんもこんな感じなのだろうか…
~情報処理に特化し伝播能力に優れている脳内細胞からなる「ニューロン」
実は人よりクジラのが多い
人間は五感を駆使してインプットした情報を発達した脳で統合してアウトプットする 外向きの知性
クジラ 音で世界を構築し、理解しているのでは?
そして言語を持たない彼らは外に向かって生み出すことはない
内向きの知性や精神世界を発達させているのかも~…とある
クジラは深く広い海でひっそり何を考えているのだろう
神秘だ
俗っぽい子は「あそこの海洋に出るとエサがたくさんある!」って感じかな?
思慮深い子は最近海の汚染を嘆いたりや温暖化で将来が不安なのかもしれない…
きっと人と同じで個体差があるのだろうなぁ…

「アルノーと檸檬(レモン)」
伝承鳩が出てくる
鳩かぁ
鳥は大好きなのだが、鳩だけがどうも…
が、実に見る目が変わった!
何百キロも飛行できることは知っていた
初めての土地に放たれても帰巣本能で戻れる…これも知っていた
~太陽や天体の位置と体内時計を使って方位を導き出す
そして地磁気を見ている
網膜に光と磁場を受けて電子レベルで反応を起こすタンパク質があるらしい
空間情報の記憶力
一度飛べばそのルートの陸標を記憶する
地形、川、湖、木や岩、建物まで
さらに匂いや音まで~
す、すごい!
帰巣本能って凄いなぁ
私も若い頃はどれだけ酔っぱらって記憶を無くしてもきちんと家に帰れたものである(笑)
しかし帰る家があるって当り前じゃない!そんなことをしみじみ感じた
当たり前なことに感謝して幸せを実感していかなくては

「玻璃(はり)を拾う」
珪藻(ケイソウ)
水の中にいる植物プランクトン
0.1ミリもないものがほとんど
単細胞生物
(実は中学校で習っているっぽい…)
珪藻の「珪」は「ケイ素」である
ケイ酸塩はガラスの主成分
つまりこの生物はガラスの殻をまとっている
ちなみに珪藻土は珪藻の殻が堆積してできたもの…
珪藻土はちまたで問題となったアレだが、珪藻土が悪いわけではなくアスベスト(石綿)が混入していたことが問題なので、イメージが悪くなってしまったケイソウがちょっと気の毒である
そうこんな単細胞微生物が美しいガラス細工のような模様を持ち、私たちを楽しませてくれる
そして珪藻土でもコースターやバスマットなどお世話になっている…
ちなみにこのストーリーでは「おはぎ」の下りがとても好きだ
ふっくら煮た大豆の優しい甘さが伝わってくる
作った人の人柄がしっかり伝わってとても切なくなる部分だ


「十万年の西風」
〜科学者の自然の摂理を明らかにしたいという好奇心
残念ながら人はそれが何に利用できるか考え始め、思いついた以上、実現したいという好奇心を止めることは困難
それが核兵器や、原子力発電へとつながってしまう…
例えば、使用済み核燃料の放射レベルが、原料となったウラン鉱石と同程度に下がるまで、十万年かかる〜
そこまで誰が深く考え責任を持つのだろう…
難しい問題である
ここで初めて知ったのが以下(備忘録として)
~日本独自の爆弾開発
対アメリカ向け
風船爆弾(気球兵器)
和紙をこんにゃく糊で貼り合わせた生地
重さ、耐圧性、水素透過性が優れていた
偏西風に乗せてアメリカへ~



科学との出会い
個人的に好奇心が満たされてうれしい
いや、これを読んだ思った
人ってやはり好奇心さえ失わなければ結構前向きに生きていけるものじゃないのか
悶々とするより好奇心に従ってみるのも新しい何かが開花する気がする

それと…環境や過去のせいにしたところで結局自分で自分を縛ることになってがんじがらめだ
そんなことにとらわれてはいけない
そして人との関りを大切に積み重ねていけば自ずと未来が開ける
そんな人の底力を感じ、悪いことばかりじゃないぞ!と明るい未来とポジティブで健全な心を取り戻せそうなそんなストーリーであった

あとぜんぜん別のことも…
この世で人間の欲ほど環境に悪いものはないんじゃないか
そんな残念なことも頭をよぎる
傲慢になってはいけない
改めて…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年8月23日
読了日 : 2021年8月23日
本棚登録日 : 2021年8月23日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする