三咲光郎 2007年の作品。
すさまじい物語だった。
戦時下の憲兵と警察の力関係のことなど、よく知らずに読んだ。
ラスト80ページは「凄惨」のひとことだ。
確かにミステリではある。
が、事件の背景を追えば追うほど、戦時下の日本のありようが読み手に迫ってくる。
謎を追うことを楽しむミステリとは勝手が違う。
重いものが胸に渦巻く。
どんなに読み進めても、憲兵・渡里中尉の恐ろしさが和らぐことはなかった。
反して、最初は威張り散らして見えた憲兵たちの人間らしさが、
徐々にじんわり沁みていった。
主人公の巡査・弘之は、18歳とは思えない冷静さだった。
命が軽んじられていた時代、赤紙が来れば特攻要員として召集されてしまう。
あと4日で召集というせっぱつまった命だった。
だから、ここまで冷静に、なおかつ大胆になれたのか。
一巡査が、大胆に憲兵にズバズバと切り込んでいくその様、
ある種、ハリウッド映画のようだと思った。
地方という特色のせいもあろう。そう解釈したい。
読み終えて、ざわざわしたものが残った。
いろいろな読み方ができるだろう。
食べる手立てをなくした人たちが取った行動について。
毎日、未曾有の命が爆撃で失われている中、
殺された憲兵数人の足取りを追う弘之の捜査について…。
読書状況:未設定
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2008年7月19日
- 本棚登録日 : 2008年7月19日
みんなの感想をみる