動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2001年11月20日発売)
3.60
  • (208)
  • (372)
  • (546)
  • (42)
  • (17)
本棚登録 : 3910
感想 : 304
4

ポストモダンを「オタク文化」の観点から論じた本書は、以前から関心があった。長らく「積ん読」になっていた本書だが、期待にたがわぬ内容だった。ポストモダンという思想が支配した90年代以降は、文化的に「オタク」が席巻した時代でもあったが、オタクの指向も時代と共に様変わりした。その変化の様子をつぶさに観察し、分析し、ポストモダンという時流を物差しにして論じて見せた本書は、近代を超えた「今」に対するテーゼとして読まれるべき一冊であると思う。
ポストモダン時代の論客として、大塚英志や宮台真司らの著作も(比較的理解しやすそうなものを選り好みして)読んでみたが、東浩紀の文章は、深いところにある思想を、身近な例を駆使して我々が理解可能な表層に浮かび上がらせ、結果として思想の一端を可視化してくれるという意味で、ポストモダン論者の第一人者だと考えている。
タイトルにある「動物化する」とはどういうことか。それは本書を読めば容易に理解できる。別のところでも書いたけれども、インターネットを介した仮想空間でのコミュニケーションが主流となった現在、リアルな社会は形を失い、全体を貫く社会的、文化的一貫性は失われつつあり、少なくとも曖昧化あるいは希薄化を辿っていることは疑いない事実である(ことが本書を読むとよく分かる)。本書の中で、戦後のテロ事件として名高い連合赤軍とオウム真理教を比較分析している箇所がある。両者の違いは、「何を信じるか」という点におけるわずかな違いであると結論づけられているが、ポストモダン時代を生きる人間が「動物化」したこととこの「わずかな違い」は密接に関連しているような気がしてならない。本書を読んで、そのことを強く感じた。
「ゆとり世代」などと揶揄される、現代を生きる世代は「欲がない」と評されたりもする。この「欲」の内容を掘り下げると、「動物化」した人たちとは何か、ということも見えてくる。戦後の復興と成長を目指して、貪欲におのが「欲望」に向かって邁進した世代から見れば、現代の人びとは「無欲」に映るのかもしれない。だが、貪欲な欲望が生み出したバブル神話がはじけ、またソ連崩壊による世界的な体制の大きな変化を経た現代、「動物化」することは、現代の生きる知恵の一つだったのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・思想
感想投稿日 : 2019年9月20日
読了日 : 2019年9月19日
本棚登録日 : 2018年9月11日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする