ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

4.13
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本棚登録 : 1872
レビュー : 181
著者 :
制作 : redjuice 
イワトビペンギンさん 小説(SF)   読み終わった 

読むまで、この物語に対して誤解があった。誤解の根拠は主に表紙のデザインにあるのだが、てっきり「ラノベ風味のSF小説」という軽い気持ちで読み始めたのだ。作者の伊藤計劃という名前はさすがに知っていたし、気にもなっていたが、どうにも表紙のデザインから受ける「ラノベ」的印象が、自分をこの物語から長らく遠ざけていた。
雰囲気としては、たしかにライトノベル的なものをまとってはいるかもしれない。しかし、内容はむしろ硬派だ。SF小説であり、その舞台も徹底的に個人レベルの健康を「生府」とよばれる国家レベル(?)の組織が管理する世界である。この前提だけで、物語はファンタジーの性格を帯びるし、この世界こそラノベの十八番ともいえる領域である。
だが伊藤計劃の『ハーモニー』はそれでは終わらない。このことは、文庫版の巻末に収録された佐々木敦とのインタビューを読めばわかる。伊藤氏は、一見軽く見えるこの物語に、実に周到な企みを潜ませているのだ。話はロジカルに展開するし、物語の世界も計算しつくされている。多くの人物が登場するけれども、無駄なキャラクターはなく、かつそれらのキャラクターは物語の中で一人ひとり個性が際だっている。
重いテーマを女子高生に語らせていることに、読み始めこそ軽い違和感を覚えたが、これもまた伊藤氏の深い計算によって生み出されたシチュエーションであった。重厚なテーマも、一見そんな会話をしそうにないガールズトークをメインに進んでいくから、内容もすっと入ってくるし、リーダビリティも高い。
トマス・モアが『ユートピア』を著して以降、おそらく多くのユートピア小説(対するディストピア小説も含めて)が書かれてきたが、伊藤計劃の『ユートピア』もまたその系譜に肩を並べ、歴史にその名を遺す作品となるだろう。そして、ユートピアとは、ディストピアと常に二律背反の関係として存在することを、あらためて教えてくれる。

レビュー投稿日
2019年4月11日
読了日
2019年4月10日
本棚登録日
2018年11月20日
4
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