呪いの時代

著者 :
  • 新潮社 (2011年11月1日発売)
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最近、読んで面白かった一冊は、内田樹さんの「呪いの時代」。

本のタイトルにもなっていますが、内田氏は、この時代を「呪いの時代」と指摘しています。

ネットの掲示板に「死ね!」と書くような行為や、メディアによる特定の人物に対するバッシングは、言葉によって人を傷つけ、時には、死にまで追い込んでしまうものです。

破壊的な言葉によって、人を殺してしまう。
これは「呪い」と同じ。というわけです。

では、この「呪いの時代」をどう生きていけばいいのか?
内田氏は、この問いの答えを「祝福する」ことだとし、次のように書かれています。

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それは生身の、具体的な生活のうちに捉えられた、あまりぱっとしないこの「正味の自分」をこそ、真の主体としてあくまで維持し続けることです。

「このようなもの」であり、「このようなものでしかない」自分を受け入れ、承認し、「このようなもの」にすぎないに関わらず、けなげに生きようとしている姿を「可憐」と思い、一掬(いっきく)の涙をそそぐこと。
それが「祝福する」ということの本義だと思います。

呪いを解除する方法は祝福しかありません。
自分の弱さや愚かさや邪悪さを含めて、自分を受け容れ、自分を抱きしめ、自分を愛すること。

多くの人が誤解していることですが、僕たちの時代にこれほど利己的で攻撃的なふるまいが増えたのは、人々が「自分をあまりにも愛している」からではありません。逆です。

自分を愛するということがどういうことか忘れてしまったせいです。
僕たちはまず「自分を愛する」というのがどういうことか思いだすところからもう一度始めるしかないと僕は思います。
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なるほど。と思いました。

少し角度が異なるのですが、数年前、ある中小企業の経営者から、こんな話しを伺いました。

経営者は、従業員に「もっと、こうしてほしい」とか、「どうして、こうしてもらえないんだろう」とか、考えてしまいがち。
でも、そういう思いを募らせて従業員に話しをしても、言葉は届かず、従業員との溝が深くなる気がしていたそうです。
そして、その方は、「感謝する」ことを忘れていた。と気がついたそうです。

私自身も、その頃、「感謝する」ということを忘れていたなぁ…。と思い当たることがあり、この経営者のお話がとても身にしみました。

自分以外の人の存在や行為に「感謝する」こと。
これって、やはり、とても大切なことだと思います。

相手に対してどうこうというより、
「感謝をする」時は、「自分のことを、よく捉えられている」時だという気がするからです。

「たいしたことない自分」を認めると、自然に、今、自分に与えられている現状や、周りの人に対して「ありがたいな」って思えてきます。

気持ちが楽になったり、変なプライドを手放すことができたりします。

これまでと状況に変化がなくても、新しいスタートラインが見えたり、頑張ろうというエネルギーが沸いてきたりもします。

「感謝する」「祝福する」は、誰かのためにするものではなくて、結局は、自分のためにしているのかもしれないですね。

話を戻しますが、内田樹氏の「呪いの時代」の中では、
第5章『「婚活」と他者との共生』と
第6章「草食系男子とは何だったのか」も、なかなか面白かったです(*^_^*)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年2月2日
読了日 : 2012年2月2日
本棚登録日 : 2012年2月2日

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