ひと

著者 :
  • 祥伝社 (2018年4月11日発売)
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本棚登録 : 5502
感想 : 652
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「僕は二十一歳。
急がなくていい。一つ一つだ。

急がないが、とどまらない。
そんなふうにやっていけたらいい。

先は大事。でも今も大事。
先は見なければならない。
でも今も疎かにしたくない。

だって僕は、生きてる。」
(294ページ)

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柏木聖輔、21歳。

3年前に父を亡くし、大学2年で母を亡くした。
人生には、まったく予想できないことがおこるものだ。

大学を辞め、お惣菜屋でアルバイトをする毎日。
日々はまわる。
僕の人生も、すこしずつ進んでいく。

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小野寺史宣さんの小説を読むのは、「近いはずの人」に続いて2作目です。
そして読み終えて「読んでよかったな」と率直に思えたのが、この「ひと」という物語でした。

主人公・聖輔の目線で語られる物語は、淡々としていますが地に足がついていて、すごく心地よいです。
冷静でおだやか、優しい聖輔ですが、でも日々の出来事に流され続けるのではなく、日々の小さな小さな選択を、おろそかにはしません。
自分の身に起こったことの責任を、誰かに押しつけたり、悩み続けたりもしません。
自分の頭で考え、選んだ小さな道を一方的一歩、踏みしめながら歩いていく聖輔の姿に、人生の歩み方を教えてもらった気がしました。

このお話では、社会をにぎわすようなハデな大事件も起こらないし、ここが見せ場!というようなこともありません。
そこにあるのは聖輔の、嘘いつわりのない、日常だけです。
だけども、読んでいると聖輔を応援している自分に気がつきます。

でっかい一歩より、小さな一歩を。
日々の小さな選択を大切に、とどまらず、小さく歩んでいく。

そんな風に、日常をしっかり生きている人に、出会えた本でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年11月6日
読了日 : 2020年11月6日
本棚登録日 : 2020年11月6日

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コメント 3件

虎徹さんのコメント
2023/03/17

小さな一歩を大切に、、、良いですね(^^) 「商店街の一部とみなしてくれていることが嬉しい」というような表現があり、今の世の中でそれだけでは喜べない人が多いような気がする中で、些細なことに幸せを感じられる心を持っておきたいと思いました。

こゆきうさぎ148さんのコメント
2023/03/18

虎徹さん
コメントありがとうございます!
そうそう、でっかく生きたい!!という夢もいいですが、目の前にある人生をしっかり踏みしめながら生きることもまた、たいせつですよね。
テレビやネットなどの影響から、有名になったり稼いでいたりすることをついついうらやんでしまったりしまいますが、こういう作品を読むと、ハッとしてしまいますよね(しみじみ)

最近、瀬尾まいこさんの「その扉をたたく音」に書いた感想にコメントいただいたのですが、小野寺史宜さんの「ひと」と物語は違えど、どちらの作品も地に足つけて生きることや日々の暮らしのなかにある宝物みたいな出来事をすくい上げて教えてくれるお話だなあ…と感じました。

虎徹さんのコメント
2023/03/18

おぉ、読みたい本リストに入れておきます(^^)

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