「僕は二十一歳。
急がなくていい。一つ一つだ。
急がないが、とどまらない。
そんなふうにやっていけたらいい。
先は大事。でも今も大事。
先は見なければならない。
でも今も疎かにしたくない。
だって僕は、生きてる。」
(294ページ)
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柏木聖輔、21歳。
3年前に父を亡くし、大学2年で母を亡くした。
人生には、まったく予想できないことがおこるものだ。
大学を辞め、お惣菜屋でアルバイトをする毎日。
日々はまわる。
僕の人生も、すこしずつ進んでいく。
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小野寺史宣さんの小説を読むのは、「近いはずの人」に続いて2作目です。
そして読み終えて「読んでよかったな」と率直に思えたのが、この「ひと」という物語でした。
主人公・聖輔の目線で語られる物語は、淡々としていますが地に足がついていて、すごく心地よいです。
冷静でおだやか、優しい聖輔ですが、でも日々の出来事に流され続けるのではなく、日々の小さな小さな選択を、おろそかにはしません。
自分の身に起こったことの責任を、誰かに押しつけたり、悩み続けたりもしません。
自分の頭で考え、選んだ小さな道を一方的一歩、踏みしめながら歩いていく聖輔の姿に、人生の歩み方を教えてもらった気がしました。
このお話では、社会をにぎわすようなハデな大事件も起こらないし、ここが見せ場!というようなこともありません。
そこにあるのは聖輔の、嘘いつわりのない、日常だけです。
だけども、読んでいると聖輔を応援している自分に気がつきます。
でっかい一歩より、小さな一歩を。
日々の小さな選択を大切に、とどまらず、小さく歩んでいく。
そんな風に、日常をしっかり生きている人に、出会えた本でした。
- 感想投稿日 : 2020年11月6日
- 読了日 : 2020年11月6日
- 本棚登録日 : 2020年11月6日
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