オバマ演説集 (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1226)

著者 :
制作 : 三浦俊章 
  • 岩波書店 (2010年1月21日発売)
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岩波新書の新刊がこのところおもしろい。
堤未果『ルポ 貧困大国アメリカII』に続いて
三浦俊章編訳『オバマ演説集』を読む。

訳者解説にこうある。
オバマ大統領のレトリックを学ぼうと
日本で起きた英和対訳本ブームを指摘した後のくだりである。

  しかし、オバマ本来の魅力は、彼の思想の深さにある。
  保守とリベラルに両極化し、
  妥協が難しくなっているアメリカで、
  いかに合意を作り上げるのか。
  厚く堅い板をくりぬくように考え抜くところに、
  オバマのすごさがある。
  (p.243)

民主党全国大会演説「大いなる希望」に始まり、
ノーベル賞受賞演説「正しい戦争、正しい平和」まで
10本の演説を収録。
東京での演説「太平洋国家アメリカ」を除いて三浦俊章の翻訳。

僕にとって圧巻は、平和の尊さを認めながらも
アフガニスタン、イラクでの戦争を肯定せざるを得なかった
ノーベル平和賞受賞のスピーチだ。
エルサレム賞を受賞した村上春樹のスピーチ『卵と壁』と併せて読めばその対比でいっそう興味深い。

オバマはケネディ、キング牧師らの言葉をさかんに引き、
自らの思考の足跡を聴衆に示し、説得しようと試みる。

  ケネディはこう言ったのです。
  「もっと現実的な、達成可能な平和、
  つまり人間性が突然革命的に変わるということはあてにせず、
  人間のつくる制度を段階的に発展させる
  という考えに基づいて、力を注ごうではありませんか」。
  (p.227)

  キング牧師は昔、同じような機会に直面して
  こう言ったのです。
  「私は、歴史のあいまいさの前に
  人は結局絶望するしかないのだ、
  という答えを受け入れません。
  人が現在の「こうある」ということにとらわれて、
  永遠の課題である「こうあるべきだ」を考えることは
  道徳的に不可能だ、という考えを受け入れることを
  拒否します。」
  (p.239)
  
オバマ大統領に仕事をさせるには
ブームが過ぎたからと目を離してはならない。
見守り、ときに異論反論をぶつけて
互いに考えを磨き合う必要がある。
オバマを当選させるために民主党に投票した有権者たちは、
"Move Obama(オバマを動かせ)"を合い言葉に
再び行動を始めた。

編訳者は朝日新聞記者。
現在はハーバード大学研究員として留学中。

(文中敬称略)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治
感想投稿日 : 2010年5月7日
読了日 : 2010年5月7日
本棚登録日 : 2010年5月7日

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