晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社 (1992年8月4日発売)
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感想 : 10
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林芙美子さんの晩菊、とても美しく色っぽい文章でした。
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田部からの電話はきんにとつては思ひがけなかつたし、上等の葡萄酒にでもお眼にかゝつたやうな気がした。田部は、思ひ出に吊られて来るだけだ。昔のなごりが少しは残つてゐるであらうかと言つた感傷で、恋の焼跡を吟味しに来るやうなものなのだ。草茫々の瓦礫の跡に立つて、只、あゝと溜息だけをつかせてはならないのだ。年齢や環境に聊さかの貧しさもあつてはならないのだ。慎み深い表情が何よりであり、雰囲気は二人でしみじみと没頭出来るやうなたゞよひでなくてはならない。自分の女は相変らず美しい女だつたと云ふ後味のなごりを忘れさせてはならないのだ。きんはとゞこほりなく身支度が済むと、鏡の前に立つて自分の舞台姿をたしかめる。万事抜かりはないかと……。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年9月12日
読了日 : 2012年9月12日
本棚登録日 : 2012年9月12日

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