副題に「偽説・都市生成論」とあるように、幻想とSFが入り混じった想像上の都市についての36の短編集。
小説は、本文より解説から読む派だ。そしてこの本こそ、その読み方が一番面白い。
ルーマニアで2年かけて書かれたこの36編は、社会主義の検閲にひっかかった。しかし検閲で消された短編のいくつかは多数の国で翻訳され、20年後、やっと完全版が出版された。しかしフランスでだ。その10年後に母国でも完全版が出版され、初稿から48年後の今、日本語訳となり、本として僕の手元にある。
良い物語とは、なんとしぶといのだろうか!歴史に負けず、踏みつけられても生き延び、複数の言語で誰かが語り続ける。
「本書の、それも過去、現在、未来の各言語一冊が『バベルの図書館』の際限ない書棚に見つかることはほとんどまちがいないでしょう」
この数奇な歴史を踏まえて本書を読めば、検閲官には随分と文化的素養があったのだなと関心する。
荒唐無稽にも思える幻想都市の短編小説が、当時の社会主義向けた批判とは、どうにも解釈しにくい。皮肉に読んでも——たとえば夢での浮気を現実で責めるように——批判には無理がある。こう思ってしまう僕に、きっと検閲官は無理だ。
代わりに、数奇な都市の数々に魅了された。階級社会を繋ぐ油を流した階段、死んだ探検家たちのダンス、4000年前から用意された棺桶、全てが当質な故に人間も同一化してしまった都市。
様々な思考実験に、思わず「キノの旅」を思い出した。あれも多様な主義主張の都市が登場する物語だ。しかし本作はそれよりも視点が広く、故にソリッドな短編が集まる。
幻想的な夢を見たくなった時、またこの本を開くだろう。そして自分だけの幻想都市を夢想するのだ。
- 感想投稿日 : 2023年11月8日
- 読了日 : 2023年11月8日
- 本棚登録日 : 2023年11月8日
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