「その女アレックス」でお馴染みのカミーユ警部シリーズ長編3部作以外の唯一の中編衝撃作ですね。本書の原題は外国のヒット曲名「ロージーとジョン」でカミーユ警部と部下ルイの警察側を除く事件関係者の名前で同時に母親と息子の名前でもあるのですね。物語の冒頭から爆弾魔事件の犯人は自らをジャンと呼ぶ青年だと明かされており謎は真の動機を残すのみですが、これが簡単に見えてさっぱり五里霧中で雲を掴む様に難解なのですね。ラスト3頁の静から動への急転、ジャンにとって最初から想定内の結末だったのでしょう。ああ!誠に哀し過ぎますね。

2020年2月6日

読書状況 読み終わった [2020年2月6日]

何となくわかった気になって納得するタイトル「最後の晩ごはん」シリーズの2冊目ですね。裏の粗筋紹介文に書かれた「癒される泣けるお料理青春小説」は間違いではないけれど、どうみても普通ではないかなりファンタジー色が濃いぶっ飛んだ幻想小説でもありますので、そこは表向きにもう少しアピールすべきだと思いますしメガネの付喪神ロイド氏も堂々と表紙に描いてあげて欲しいですね。元気な劇団ばーさんず公演と作者の淡海さんの何故か冷やし中華が嫌いな理由に迫る「ばんめし屋」店主・夏神とイガこと海里とロイド氏の活躍に心癒されましたね。

2020年1月23日

読書状況 読み終わった [2020年1月23日]

井上荒野(あれの)さんが恋多き人妻の不毛の愛からの脱出と真実の愛との出逢いを描いた心を打たれる傑作恋愛小説です。ヒロインなつ恵は芸能マネージャーの夫とはすれ違いの毎日で一方妻子ある作家の師匠と愛のないセックスに溺れる不毛な日々を過ごしていたが、近所の銭湯「松の湯」で奇妙な青年「鳩」と出会って心魅かれて行くのだった。ヒロインは多情で男に惚れやすい寂しがり屋さんなのでしょうね。でも最後に自らの死の病の宣告によって不毛の愛にピリオドを打ち真実の愛を掴めて本当に良かったですし彼女の第二の人生に幸あれと祈りますね。

2020年1月6日

読書状況 読み終わった [2020年1月6日]

小池真理子さんと村上龍さんが「美しい時間」をテーマに競演した大人の小説の味わいが色濃い贅沢な中編集です。本書は女性と男性の視点の違いはあるもののどちらも根底に「大人の男女の愛」を感じますし人生経験が豊かな年代の読者の心により深く響くのではないかなと思いますね。『時の銀河』小池真理子著:長い間不倫関係にあった男の事故死の後に彼の妻と知り会って友情を深めるなんて心が休まりますね。『冬の花火』村上龍著:モナコのカジノで一夜に1億円も大勝ちした老人が自殺した理由とは?熟年夫婦の皆さまへ二人で冬の花火をご覧下さい。

2020年1月2日

読書状況 読み終わった [2020年1月2日]

東野圭吾さんの通算23冊目となる学園ミステリーの異色作です。うーん、本書は今までの作品とかなり肌触りの違う問題作ですね。私は著者のあとがきを先に読んだのですが、読了後の感想は東野さんが学生時代の教師嫌いの思いを元に作品を組み立てて過酷な状況を設定しながらストーリーを完成させたのだと感じましたね。ミステリーとしては意外性が十分で最後まで楽しめましたが、私は何となく著者が辛さを感じながら書かれたようだなと推測しますね。悲運の由希子が誠に可哀相ですし私は西原に緋絽子と結ばれてもいいのだよと言ってあげたいですね。

2020年1月2日

読書状況 読み終わった [2020年1月2日]

昔女子プロレスに「あじゃコング」さんがおられましたが彼女にそっくりなヤマンバ姿の「あじゃ」と名乗る謎のナースが病室に現れて交通事故で入院中の主人公の青年に余命30日だと残酷な予言をする衝撃的な場面で幕を開ける吉村達也さんのブラックユーモア・ファンタジーホラーの中編小説ですね。ごく些細な趣向ではありますが本書はカバーがリバーシブルで二倍楽しめる凝った作りになっていますよ。本書はホラー小説だけあって暗く悲しい結末なのですが、でも主人公は美人だが実は冷たい女と別れ天国で真実の愛する人と結ばれたのは幸せでしたね。

2019年12月25日

読書状況 読み終わった [2019年12月25日]

「生きてるうちに、さよならを」ああ、自然に心が震え胸を打つ何て詩的でセンチメンタルなタイトルなのでしょうね。本書の骨格は、長年の友人の葬式に出席した男が、金儲けを目論んで嘘八百を述べる輩達に怒りの鉄拳をふるい、それを機に自分は生前葬にしようと決意した思いを綴る手記風の物語ですね。本書には笑いの要素は欠片もなく生真面目で道徳的な物語がどんどん続くのですが、やがて愛のない妻子と逆に真剣に愛している愛人という構図が次第に逆転して行き最後に意外な真実が明かされます。殺伐としながらも哀愁が漂う結末に満足しましたね。

2019年12月25日

読書状況 読み終わった [2019年12月25日]

江國香織さんが著し山本周五郎賞を獲得した男と女の愛の物語10編の秀作短編集です。本書を読んで思いついたのは、この10編を元にしてフォークソングの達人の方々にイメージを膨らませた歌を書いてもらったら1枚のアルバムとして面白い物が出来そうだなという贅沢な夢みたいなアイディアでしたね。演歌歌手ではなくフォークシンガーにさまざまな人生の愛の歌をこしらえて欲しいですよね。シングル同士の熱愛はよいとして妻子ある男との不倫や、ろくでなし男との腐れ縁の愛でもどんなに安全ではなくとも女は後悔せずに一途に愛するのでしょうね。

2019年12月25日

読書状況 読み終わった [2019年12月25日]

長野まゆみさんの中編ファンタジー小説の佳品です。主人公の青年・月彦と母と祖母、近く取り壊される予定の空き家に住む二人の美少年、甘い食べ物が大好物の黒蜜糖と厳格な性格の銀色。祖父の形見の羅針盤付きの何故か夏になると止まる時計、夏至祭、路面電車、ストーリーはごく単純で短くあっさりとした話ですが、細部の情景がイマジネーションを刺激して鮮やかに脳裏に浮かび、ラストの優しく心に沁みるような真相が読後永遠に記憶に刻まれそうな気がしましたね。棠梨(ずみ)、睛(め・ひとみ)、楊桃(やまもも)等々の漢字も風情がありますね。

2019年12月15日

読書状況 読み終わった [2019年12月15日]

とにかくサクサク読めてしまう学校のあるある現代怪談噺18編。余談ですがこれを読んで学生時代にこういう怖イ噂とは無縁で幸せだったなと思いますね。私の唯一の悲しい経験は野兎が一匹ポットン便所に落ちちゃった事件ですね。この手の本は短すぎて読んだらすぐに記憶から消え失せてしまうのが玉に瑕ですが逆に時間を置いて何度でも繰り返し楽しめる良さはありますね。四年に一度人が死ぬ周期が毎日になりませんように。イジメ女教師が無事で無関係の生徒に祟るのは理不尽ですね。図書館を怖い場にしないでね。あわせ鬼を呼ぶ合わせ鏡にはご用心!

2019年12月10日

読書状況 読み終わった [2019年12月10日]

東野圭吾さんのオリンピックの陸上スポーツ競技を材に取った追う者と追われる者殺るか殺られるかのノンストップ追跡サスペンス推理の秀作ですね。本作はストーリーがシンプルでわかりやすくて悩まずにどんどん頁が繰れるのがよいですね。ドーピング請負人の男を証拠隠滅の為に殺した四人の男女を男の弟子の美しき凶器こと毒蜘蛛女タランチュラが殺そうと追跡する復讐劇の行方がスリリングな読み心地です。警察が終始後手に回る展開はやや出来過ぎな感じですが単純と思わせて実は最後に巧緻な捻りが待っていました。娘の最後の敗北は可哀相でしたね。

2019年12月9日

読書状況 読み終わった [2019年12月9日]

米澤穂信さんのミステリアスなテイストが仄かに香り無慈悲な女達の心情が心胆寒からしめる連作短編集です。本書は女性ばかりの語りで書かれていて警察は不在も同然という事で世間の掟とは無縁の良く言えば弱肉強食殺るか殺られるか好き勝手にしたい放題のブラックで無慈悲な無法地帯の米澤ワールドですね。細かく言うと海外作品パターンのパロディ等ありますがそういう事は知らなくても面白く読めるでしょうね。表題作のラストは少し残念でしたが、やっぱり「玉野五十鈴の誉れ」の最後の一節「赤子泣いても蓋取るな」が一番ぞっとする怖さでしたね。

2019年12月6日

読書状況 読み終わった [2019年12月6日]

中山七里さんの猟奇殺人サスペンス・ミステリ刑事犬養隼人シリーズの第1作です。本書にはお馴染み埼玉県警の古手川刑事が登場して派手なアクションはなかったけれど犬養刑事と本音で語り合う会話が良かったですね。本書は19世紀英国の連続殺人犯・切り裂きジャックが現代に甦って体内からあらゆる臓器を抜き取るという陰惨でグロテスクなストーリーに今日的な臓器移植の問題を絡めた意欲作ですね。ミステリとしての真相は動機が常識的に過ぎてちょっぴり残念でしたが、でも最後のシーンには著者の温かな優しさが感じられてホロリと泣けましたね。

2019年11月28日

読書状況 読み終わった [2019年11月28日]

中山七里さんの実質的な処女作と言えるSFダークファンタジー系のサスペンス・スリラーミステリですね。冒頭からいきなり出て来る凄惨なバラバラ死体のおぞましさ!本作は「連続殺人鬼カエル男」の前日譚ですね。本書は映画化にふさわしく私としては後半の大スペクタクル場面をぜひ見たいと思いますが。超有名な海外映画を想起させる事やあまりにも暗く陰惨なストーリーがネックなのかもしれないですね。桐生の少年時代の凄まじい虐めと復讐物語や宮條と美里、そして槇畑の運命の何たる救いのなさ!徹底したダークな物語を覚悟してお読み下さいね。

2019年11月26日

読書状況 読み終わった [2019年11月26日]

池井戸潤さんの江戸川乱歩賞受賞作のデビュー作は著者入魂の金融殺人ミステリーの傑作ですね。主人公の銀行員・伊木遥はクールで出世欲とは無縁の地味な男ですが、いざとなれば実力を発揮してソフトなだけでなくハードで手荒な命懸けの勝負にも怯まないハードボイルドなタフガイなのですね。池井戸さんは初期の頃は金銭欲に狂った非道な犯人が行く手を阻む邪魔者を大量に抹殺するこんなにもど派手な大量殺人物語を書かれていたのですね。無残に殺された死者達と哀しみに沈む生者達の為に最後の砦として外道の悪党に挑む伊木の心意気に痺れましたね。

2019年11月24日

読書状況 読み終わった [2019年11月24日]

池井戸潤さんの珍しく田舎を舞台にしたサイコ・サスペンス本格ミステリの秀作ですね。本書は人気作家の池井戸さんには稀な唯一の絶版本になっていて実は入手に少しだけ苦労しましたね。痛快なエンタメが持ち味の著者らしくないシリアスなサイコキラー・サスペンスは逆に地味な印象を与えますね。何人の死者が出たのか不明な程の大量殺人の血塗られた残虐シーンですが不思議と恐怖感が込み上げないのは著者の冷徹な筆致の故でしょう。最終5頁ギリギリまで意外な犯人を伏せる演出は心憎いですし巡査の五郎と善良な娘・多英が幸せになれてよかったね。

2019年11月22日

読書状況 読み終わった [2019年11月22日]

知念実希人さんの「みき」の名前の一部が題名に使われているのだなと漸く気づいた「神酒クリニック」シリーズの2冊目です。今回も個性豊かな6人のドクターのユーモラスな掛け合いと時限爆弾サスペンスのスリリングな臨場感が楽しめた秀作でしたね。今回はやや真相が単純でしたが、元プロボクサーVS九十九勝巳の格闘シーンや神酒院長のカッコよさ、お色気巨乳姐さん・ゆかり、スピード狂・真美、ニヒルな黒宮、そして読心術士の精神科医・翼の大活躍を堪能しました。彼はあの天久鷹央の兄なのですが次は著者にコラボの物語を書いて欲しいですね。

2019年11月19日

読書状況 読み終わった [2019年11月19日]

知念実希人さんの人気医学ミステリ天久鷹央シリーズの2冊目ですね。今回も童顔の天才女医・天久鷹央と助手の小鳥こと小鳥遊優と新米研修医・鴻ノ池舞のトリオの活躍がシリアス且つユーモラスで楽しめましたね。知念先生は知られざる医学の専門知識と善意が悪意に変質する意外性がお得意技だと感じますね。『甘い毒』健康になる筈が命取りに!最後はめでたし。『吸血鬼症候群』藪医者にはご用心ですね。『天使の舞い降りる夜』何とも人騒がせな悪ガキども。子供の先生・鷹央が無力感から真剣に悩んだ事件でしたね。少年の天国での幸せを祈りますね。

2019年11月18日

読書状況 読み終わった [2019年11月18日]

道尾秀介さんの初期作で名探偵・真備と助手・凛とホラー作家の道尾さんご自身が活躍する秀作ミステリ短編集ですね。正面切ったフーダニットはない物の人間心理の盲点を突いた異色のトリックが新鮮でどの作品も読後の余韻が素晴らしいですね。『流れ星のつくり方』最終行の騙しの衝撃。『モルグ街の奇術』道尾マジック!消えた腕は何処へ?『オディ&デコ』風邪でダウンの真備の代役で道尾さんが大活躍。子猫と鼻声の話。『箱の中の隼』妖しい宗教法人施設で道尾さん恐怖と苦難の一夜。『花と氷』孫娘を死なせた老人男の錯乱の罠を見破る真備の慧眼。

2019年11月15日

読書状況 読み終わった [2019年11月15日]

道尾秀介さんが描く過去と現在が激しく交錯し虚実が入り乱れる一人の青年を巡る3人の女の人生の物語。「球体の蛇」には現実の蛇は出て来ませんが何度も壊されたスノードームの中でうごめいている印象が鮮烈ですね。暗くて切ないストーリーですが、でも読者を本格的に落ち込ませないのが道尾さんの良さでしょうね。主人公トモとサヨと智子とナオの愛の物語で序盤のトモが床下に忍び込む場面では乱歩の人間椅子を思い出しました。トモはこのままきっぱりとサヨと智子への執着を断ち切れるのでしょうか?智子を追って物語は続きそうな予感がしますね。

2019年11月14日

読書状況 読み終わった [2019年11月14日]

東野圭吾さんの通算21冊目となる技ありの騙しと本格推理パロディーの問題作ですね。男女7人の役者達が集められた嘘のクローズドサークルの雪の山荘で夜毎に一人ずつ姿が消えて行く。本書はクリスティー女史の不滅の名作「そして誰もいなくなった」と共に本格ミステリに挑んだ東野流パロディーと言えるでしょう。うーん、読後の実感はガッカリの虚脱感と拍子抜け感が半端なく強いですが、でも東野さん自身が全てのリアクションを予想された上での演出だとも思えますね。私は本書に関しては著者の人としての優しさに触れられた事に満足しましたね。

2019年11月10日

読書状況 読み終わった [2019年11月10日]

東野圭吾さんの交通事故犯罪小説で読後はダークな後味を残しながらもギリギリ最悪にはしない絶妙な味のブラック短編集です。『天使の耳』ユーミンの名曲が鍵という粋な演出で彼女は天使か?それとも悪魔か?『分離帯』刑事は最後に正義を選ぶか?情を選ぶのか?『危険な若葉』悪質な煽り運転被害者の反撃。『通りゃんせ』路上駐車が原因となった痛ましい悲劇。『捨てないで』ポイ捨ての缶が当って片眼を失明はバッドミラクルですが、如何なる形にせよ悪人が滅ぶのは必定の運命ですね。『鏡の中で』オリンピック選手の事情は偶然今が旬の話題ですね。

2019年11月10日

読書状況 読み終わった [2019年11月10日]

平野啓一郎さんが世界を舞台に運命の悪戯で深く愛し合いながらも結ばれない男女の真摯な愛を描いた感涙号泣必至の傑作恋愛小説です。蒔野聡史(38)と小峰洋子(40)の二人の運命はまさに悲運と言うしかありませんが、それにしてもどれだけ他者への思い遣りの心に満ちているのかと心から敬服しますね。この二人みたいな人ばかりなら世の中から殺人はなくなるでしょう。二人の間に横たわる距離の遠さと折角近くにいながらのすれ違いが哀切でラストは自然に涙が溢れて止まらなくなりました。二人には己に正直な気持ちで未来を選択して欲しい。

2019年10月16日

読書状況 読み終わった [2019年10月16日]

直木賞作家・島本理生さんが大人の男女の愛の形を描いた秀作官能恋愛小説ですね。帯に映画化!2020年2月全国ロードショーと書かれているのを見てきっと多くの人々が官能シーンに期待して観に行くのだろうなと思いますが、何か私にはそれが少し悲しく思えますね。でもそれは自然な人間の営みには違いないのですが。題名「Red」は著者の感性による表現なのでしょうし読者も文句を言わずに受け入れるでしょうね。娘・翠の将来を考えた上でのヒロイン塔子の決断はベストだったと思いますし、翠ちゃんママの気持ちが解る時が何時かきっと来るよ。

2019年10月12日

読書状況 読み終わった [2019年10月12日]
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