権力 (思考のフロンティア)

著者 :
  • 岩波書店 (2000年6月21日発売)
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感想 : 5
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友人から借りて読みました。「思考のフロンティア」シリーズのレビューは3冊目です。

本書は、政治の中心的概念の1つである「権力」について、その多義性を真正面から受け止めつつ、わかりやすく論じた一冊となっています。

第Ⅰ部では、一般的な権力イメージとしての「AがBに対して、さもなければBがしないような何かをさせるかぎりにおいて、AはBに権力を有する」といった「主体間権力」を多角的に批判することで、これまでの権力論が概観されます。
まずは、そこで想定される「主体」の非自明性についてが、S・ルークスの権力観を参照することで指摘され、M・フーコーの「主体化する権力」によって明らかにされます。そして一方では、「意図」や「責任」といった想定が、権力論を捉えきれない曖昧さを有している側面も考察されていきます。

第Ⅱ部では、権力概念の多義性が論じられます。
まず第1章で、これまでの神学的な理解に基づく「主権」概念と対比させながら、フーコーの脱中心的な権力論の概略が素描されます。
次に第2章では、権力と暴力の不可分性が指摘されながら、暴力的かつ「非対称な権力関係」のメタレベルに位置する「対称的な権力空間」の存在が明らかにされます。
続いて第3章では、このような権力空間の生成を説明する契約論、共和主義、V・ベンヤミンの議論が参照され、最終的には権力空間を支える個人の動機とイデオロギーの関係性が考察されます。
最後に第4章では、権力と自由の関係について、これまで論じてきた権力論とI・バーリンの自由論が同型であることが指摘され、「対照的な権力空間」を保持しながら「非対称的な権力関係」を問い直すことのできる「自由」が、個別的な権力関係の見直しとしてのフーコーの「抵抗」に求められていきます。

以上が本書の内容ですが、概念の多義性を論じながらも各章の連続性が保たれているため、入門書としては完成度の高い一冊であったように思います。難解な理論もわかりやすく説明されており、文体もかなり読みやすいです。

本書のように「権力」概念を多角的に理解することは、日常生活において自分を取り囲むさまざまな外的制約を捉え直すきっかけとなり、自分にとっての「自由」な領域を考え直すことにも繋がるので、政治に興味の無い方にも強くおすすめできる一冊です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治理論・思想・社会学
感想投稿日 : 2012年9月19日
読了日 : 2012年9月19日
本棚登録日 : 2012年9月19日

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