想像ラジオ (河出文庫 い 18-4)

  • 河出書房新社 (2015年2月6日発売)
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自分は東日本大震災からずっと心に引っかかりを持って毎日生きてきた。
福島県の海からすぐの実家はたまたま半壊に留まり、たまたま身近に不幸はなかったけれど、それでも自分含め家族には傷痕が今も残っている。
震災当時からの3年間は石巻に行ったり、福島の子供たちの長期休暇の受け入れをしたりしました。
決して忘れられないこと、忘れてはいけないことだと思う自分の気持ちとは裏腹に暴力的に忘却が進む。
東日本大震災に纏わるあれこれに未だにどう向き合ったらいいのか分からないままで、忘れちゃいけないと感じつつも忘却が進む自分に苛立ちを覚えて、地元には身近な誰かを失った人もいる中で自分が何に心が引っかかりを感じているのか分からないままで 。
自分の向き合い方が合ってるのか間違ってるのか、そもそも最適解があるのか、震災の前後に亡くなった祖父母を思って実家の仏壇の前にいるとよく考え込んでしまう。

災害に遭った人と逢わなかった人に差を見出す必要ってないのかな。
死者と生者の関係ってそういうことなのかな。
自分はこのままでいいのかな、と少しだけ許せるような一冊でした。

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日本語ラップの元祖であるせいこうさんの歴史を味わうこともできました。以下は、せいこうさんへの愛に偏った感想です。

文章の特徴として、読み進める中で脳の片隅へ片隅へと格納されていく数ページ前に置かれた何気ない一小節が、ページを捲るにつれリフレインされて新たに意味を持って、物語に厚みが増されていく。
これは、日本語ラップの元祖である、せいこうさんならではの表現技法だと思いました。
それは、HIP HOPを覚えたてのラッパーにありがちな安いライミングのようなものでは決してなくて、話の筋の通った物語性のある表現方法です。
まさに、「気づかせるんじゃなく、自ら気づく」「後で気がつく、そしてにやつく」表現方法だなと。

また、本書の節目節目ではDJが現実のラジオさながらに楽曲を紹介していくのですが、どの選曲も物語の情景により厚みを持たせる楽曲ばかりで、Apple Musicで楽曲を聴きながら物語を読み進めていきました。
読書という活字からの想像行為に音楽によって拡張性を持たせてしまうなんて、読書がより楽しいじゃないかとワクワクしました。
また、各楽曲には特有の歴史や背景があって、各楽曲の歴史を紐解いてから読み直すことで、物語への理解がさらに深まるような気がしました。
HIP HOP文化にとってクラシック楽曲の探究は切り離せない行為ですが、今もクラシック探究をし続けているせいこうさんだからこその選曲ばかり。
クラブDJ上がりの自分としては、せいこうさんオリジナルの選曲付きで、せいこうさんオリジナルの本書を読めることは、人生の贅沢そのものでした。

以上

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年8月5日
読了日 : 2019年8月2日
本棚登録日 : 2018年11月10日

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