星の子 (朝日文庫)

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レビュー : 71
著者 :
有穂さん 現代小説   読み終わった 

自分の日常がなんだか他の子達とは違うようだ。
と、気づくのはいつの頃からなのだろう。
おおむね小学生くらいか。
あの子と遊んじゃいけません、なんて言われたって、それいじめじゃんとか、かわいそうだし、とか思ったものだけど、大人の世界は想像以上に情報が出回っていて、子供の世界に規制をかけてくる。
私は仲間はずれなんてしないもん、と思っても、親の言葉はいつまでも心の名かでぐるぐる渦巻いて、いつのまにか、というか、その次その子と会ってももう昨日のようには遊べなくなるのだ。

宗教関係の子にはあたったことはないが、最近経験を漫画にしたものなどをチラチラと見たりはしていた。
親がはまって、子供もつれていかれるケース。
大人になると自分は自分、と周りに何言われても信じる道を行くようになるが故に、付き合う世界も狭くなって、気に入った人とだけのコミュニティができてくる。
しかし、子供の世界は複雑だ。
いろんな家の子がある程度地域が一緒だからと集められてくる。特に小学校などは。
多様性の中に放り込まれ、多様性を構成する歯車に自分自身がなる。
多様性、とは言いつつ、ある程度のスタンダードというものは多数の家が所属している価値観から産み出される。
そのスタンダードから大きく外れている家の子は、「あの子と遊んじゃダメ」と言われてしまうのだ。

主人公の私は、恐らく違和感を中学生になっても持ち続けている。
自分のために両親がはまったという負い目もあって、半分くらい目をつぶっているのではないか。
残り半分では、自分達の家と同じスタンダードをもつ子や大人たちと居心地よい関係すら築いている。
耐えられなかったのは、大多数のスタンダードだった時代を知っている姉。
自分の家がおかしくなっていく切なさ、やりきれなさ、子供でどうにもできない苛立ち、家庭の庇護から逃れられない苛立ち。
しかし両親たちは己らが信じた道に突き進んでいく。
そして、母の弟もまた、そっちへいっちゃダメだよ、とあらゆる手を尽くすものの、相容れない状態が続いていく。
一度はまーちゃんと手を組んだものの、裏切られる、というか、まーちゃんが子供ゆえにやっぱり自分の家族を壊しきれなかったところに敗因があるのだろう。
それがわかるから、おじさんも一度は手を引いたのだろう。
しかし、高校受験を前に、法事で再び主人公の私はおじさんたち一家と会うことになる。
おじさんたちの家から通わないか。
おじさんたち一家は、せめてちひろだけでもこっちの世界に取り戻したい、と願っていたのだ。
その後もおじさんは家に足を運んでいるなかでの、施設での宿泊研修。
ここでは、スタンダードが逆転する。
価値観が逆転している小さな世界。
同じ空の下、流れ星を見ているのに。
やっていることは、普通の世界の人たちと変わらないところの方が多いのに。
両親は相も変わらず仲良しだ。
主人公のちひろもまた、反抗期がないのかと不安になるほど、両親と仲良しだ。まるで姉の分まで愛される対象として全うせねばと思っているかのように。
父と母に抱き締められて温もりを感じながら、寒空の下流れ星を一晩探し続ける。
誰かが脱退の話を持ちかけるでなく、洗脳の痛いシーンがあるわけでなく。
ただしそれらの共同体としての同調が生んだ不穏な出来事は、主人公を取り巻く噂として出てはくるのだが。
山と言えば、南先生ががっつり言いたいことを言って恥をかかされた憂さをみんなの前で晴らしたところ。
思いの外、異物であるはずの彼女の周りには優しい子達が残っていたな、と思った。
じゃあ、あの山なんだかなんなんだかわからないあのラストはなんなんだ。
まるで手放すまいと抱き締める両親たちの行動こそが、愛に満ちているようで不穏だ。
解釈は読者に任されているのだろうから、勢いで想像を書いてしまうと、両親は、もしかしてちひろをおじさんの家から高校に通わせることに同意をするつもりなのではないだろうか。
手放したくはない。だけど、このままではまだ若いちひろの人生が閉じられたものになっていってしまうと、本当はどこかで気づいていて、見ないふりをしていても、これを機に、と。
といっても、これは私のこうだったら、という希望的なもので、リンチ事件やICチップの埋め込み云々というところを拾うと、何があっても手放さないぞ!!の固い抱擁のような気もしてきてしまう。
どちらなのかは続編がでなければわからないところではあるが、巻末の対談でなんだか不穏な感じになりそうな気がした。

読んでいて、主人公はこの状況から抜け出せるのか、という視点でどうしても読んでしまったが、このぬるま湯のような世界が、彼女には心地いいのかもしれない。

社会の荒波の中、繭に包まれてたゆとう優しいようでいて、不安定な心持ちにさせられる物語だった。
なんか、たぶんきっとあるんだろうな。
いつも飲む水を変えるという、コンビニで買う水のペットボトルをボルヴィックからエビアンに変えるような、そんな些細なことがきっかけで、入り口は日常の中に潜んでいて。

レビュー投稿日
2019年12月30日
読了日
2019年12月30日
本棚登録日
2019年12月28日
3
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