倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)

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本棚登録 : 674
レビュー : 78
著者 :
有穂さん 現代小説   読み終わった 

戦時中のおしこめられた灰色の世界の中、ガラスのようにまっすぐで透き通っていて、それでいて割れやすい少女たちの姿が、ルポであるかのように現実に存在しているかのように等身大でつづられていく。
少女というには20歳などはどうかとも思うが、描かれ方は少女そのままであったように思う。お姉さんの役割を背負った少女たち。
しかし、本書の真犯人は思わぬところに潜んでいる。
三分の二を読み進めたところで、ラストが気になってついつい最後のページからいくらかめくってしまったが、実はそこで語っている「私」が誰かわからなかった。
ジャスミンなど新たな用語も登場している。
結局つづきから順を追うしかなかった。
幸いなことに、戻った次のあたりから真相が匂わされはじめたため、そこからは一気に読み進められた。
この物語は少女たちのものだけではない。
少女であった者たちの物語でもあるのだ。


また、本書は戦時中の人々、特に女子挺身隊や学校の生徒として工場勤めを課された学齢の子供たちの疎開していない生活がどのようなものであったかを示す資料ともなりえるものである。
あの時代、爆撃されても満員電車で人々は毎朝仕事などに赴いていたのかと思うと、非常事態と日常の奇妙な隣りあわせ(融合ではない。別物として同時に存続しうるもの)を感じる。
震災直後でも社会機能が麻痺せず、日常生活の営みもまた同時に存続していった奇妙な時間と重なるものを感じた。
これが混沌というのだろうか。
まさに灰色い時間である。
その灰色の風景を見ながら、少女を表すかのような本書のカバーのレトロな桜色とを重ね合わせたのが、通読しても変わらない本書のイメージである。

レビュー投稿日
2014年5月14日
読了日
2014年5月14日
本棚登録日
2014年4月29日
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