石黒正数のミステリ連作短編。「下天楼」という九龍城砦のような、増設に増設を繰り返し複雑怪奇に発展したというアパートを舞台に様々な事件が描かれる石黒正数らしいSFミステリ。
最近は石黒正数は新刊が出たら必ず買っているが、『それ町』以降に結構出た読み切りをまとめたものとは違って、本作は「メフィスト」で2008〜2011年にかけて連載されたもの。わずか8話ながら、4年近くかけて描かれただけあって、なかなか複雑な構成になっている。
最初はエロ本を手に入れようとする少年たちの話、宇宙刑事の話、旧式ロボットと一緒に暮らす向上で働く女性の話など、少し不思議なテイストのミステリがいくつか描かれる。それ町のたまに出てくるSFテイストと同じような感触。ただ、歩鳥やタッツンといった慣れ親しんだキャラクターが出てこないということもあって、どうも物足りない。第4話から、細目の歩鳥的な女刑事が登場していつものドタバタラブコメディっぽくなり多少面白くなってきたが、それでも最後の最後までイマイチだと思っていた。
しかし、思ってもいなかった形で個々のエピソードで描かれていたモノやヒトが、ひとつの大きな物語につながっていく終盤の展開はなかなか見事だった。まさかこういう話だったとはと驚いたし、あとで読み返してみると丁寧に伏線が良いされていたことに気づいて二度驚いた。伏線を仕込んだり、話同士のつながりを作るのが巧みな石黒正数だが、本作ではそれが一冊の中で何重にも積み重ねられ、この手法の集大成と言えるのでないだろうか。
個々の話にはあまり冴えないものもあるが、ラストの何人かの顛末はそれまでの手法を乗り越えるようなところもあり、全体としては悪くない出来だったと思う。今後も新刊が楽しみだ。
- 感想投稿日 : 2011年10月26日
- 読了日 : 2011年10月25日
- 本棚登録日 : 2011年10月25日
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