釈迢空歌集 (岩波文庫)

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レビュー : 5
著者 :
制作 : 富岡多惠子 
yuzuringo102さん  未設定  未設定

すこし西行を想起するところがあった。
生涯の旅人という印象。読んでいる題材は、里山の風景、旅中の出来事などが多いかなと思う。
万葉がうたいあげたものを、現代的に、かつ現代の風景の中に見出し、昇華させたという印象。現代版万葉集。
叙景的なものが非常に多い。
簡潔、簡素。一切の饒舌がない。境地の深さ、空間の静けさを感じる。
寡黙だけれど、詩が鮮明。鮮やかにその空間がこちらに体感される。

里人も 踏むことはなし 草荒れて さびしき道の 浜にとほれり

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葛の花 ふみしだかれて 色あたらし この山道を行きし人あり

山の際の空ひた曇る さびしさよ 四方の木むらは 音たえにけり

鳥の子の ひろき屋庭に出てゐるが 夕焼けどきを過ぎて さびしも

目のかぎり 若松山の日のさかり 遠峰の間の空のまさ青さ

★きはまりて ものさびしき時すぎて 麦うらしひとつ 鳴き出でにけり

山の霧いや明りつつ 鴬の 唯ひと声は、大きかりけり

★沢なかの木地屋の家にゆくわれを ひそけき歩みは 誰知らめやも

★山道に しばしたたずむ。目にとめてみらく さびしき木ぼっこの顔


★灯ともさぬ村を行きたり。山かげの道のあかりは、月あるらしも

山のうへに かそけく人は住みにけり。道くだり来る心はなごめり

闇夜の 雲のうごきの静かなる 水のおもてを湛えて見にけり

朝やけのあかりしづまり、ほの暗し。夏ぐれけぶる 島の薮原

★川風にきしめく舟にあがる波。 きえて複来る小き鳥 ひとつ


島山のうへに ひろがる笠雲あり。日の後の空は、底あかりして



朝日照る川のま上のひと在所。台地の麦原 刈りいそぐ見ゆ

★緑葉のかがやく森を前に置きて、ひたすらとあるくひとりぞ。われは。

児湯の川 長橋わたる 川の面に、揺れつつ光 さざれ波かも

★山原の茅原に しをるる昼顔の花 見過ごしがたく 我ゆきつかる

裾野原 野の上に遠き人の行き いつまでも見えて、かげろふの面

谷風に 花のみだれのほのぼのし 青野の槿 山の辺に散る

焼け原の石ふみわたるわがうへに、山の夕雲 ひくく垂れ来も

おのづから まなこは開く 朝日さし 去年のままなる部屋のもなかに

目の下の冬木の中の村の道 行く人はなし。鶯おりいる

★年の夜の雲吹き下ろす風のおと ふたたび出て行く。砂捲く町へ

★窓の外は、ありあけ月夜。おぼぼしき夜空をわたる 雁のつらあり


★はろばろに 浮きて来向ふ海豚のむれ つばらつばらに 向きをかへたり

曇りとほして、四日なる海も 暮れにけり。明れる方に グワジャの島見ゆ

山原になほ鳴きやまず 夜のふくる山のキギシを 聞きて寝むとす

木立ち深くふみゆく足の、たまさかは、ふみためて思ふ、山の深さを

雪ふみて、さ夜のふかきに還るなり。われのみ立つる音の かそけき

湯の山に ひとり久しき 年くれて せど山のべに 花をもとむる

秋深く 穂に立ちがたき山の田に、はたらきぎとら おり行にけり

朝さめて あたま冴えたる山の家。きその夜更けて 宿こひにしか

★庭土にあたる日寒し 朝おそく 閑けき村を たち行かむとす


ひねもす 磯静かなる道を来ぬ。うしほ染み入る 砂のうへの色

吹きすぎる風をしおぼゆ あなあはれ 葛の花散るところ なりけり

★外の海に 夕さりつのる荒汐の 音のさびしさ 山に向き行く

★砂原に 砂の流らう音すらし 鴉二羽ゆく。頭よぎりて

★はろばろの わたの砂原 時をりに 鴉ゐるらしー声 起りつつ

このあたりまで 来てー波おとのなかりけり。砂こまやかに うへ堅くあり

砂原に 砂の吹き立つかげ。ありてー見れば、静かに移ろひにけり

★うらうらと さびしき浜を来りけり。日はや、暮れて ひびく 波音

★★しずかなる村に 出でたり。村のあること忘れ来しひと時の 後

★鳥のなく山を おり来てたそがれぬ。 つひに一つの その鳥のこゑ

★ひたぶるにさびしとぞ思ふ。もろごえの蝉の声すら たえて久しき


★忘れつつ 音吹き起る山おろしに、なほひそやかに散る 花あり

★荒山に 寺あるところー暮れぬれば、音ぞともなく 琉気噴くなり


★たなそこを拍てば こだまのしづけくて、亀は浮き来れー。水の底より

山おろしのよべの響きは こもれども 朝光暑き山を あゆめり

★ことごとに もの問ひいけり 朝早き 伊敷原田の幾群れに逢ふ


ことさらに人はきらはず 着よそひて行かむ宴会を ことわりて居り

★朝早く たぎちの音を聞きにけり。ひたすら過ぐる 深き瀬の 音

松山に 夜の道白くとほりたり 十七夜月 峰にこもれり

★鳥の声まれになり行く山なかに 来向ふ秋は ひそかなりけり

★海側に 汽車よりおりて、乗り継がむ車待つほどに 曇り濃くなれり

★北国の ほどろに曇る夕焼け空。歩み出にけり。港はずれまで

★今日ひと日 ながめ暮らしてゆふべなり 超路をすぎて 出羽に入る汽車

★汐入り田は 霜折れ早し。さそはれて 我は至れり。草むらのなか

★道の霜の消えて 草葉の濡れわたる 今朝の歩みの しづかなるかな

★榛も勝軍木も すべて枯れ枯れに、山 ものげなき道 登り来ぬ

★をち方に 屋むら見えたる府中町 八十草につづきつつ 見ゆ

★夜を込めて 響くこだまか 木曽の峪深く宿りて、覚めて居るなり

冬あたたかく 終日汽車に乗り来り 人とことばをまじへず


★日ねもす すわり居たりしか この夕光に、山鳥 きこゆ

★山かげは寒しといへど 雲きれて、睦月ここのかの日ざし あたれり

★崎山の篠も 薄も臥しみだれ、海風 ひたとおだやむ夕

★柏崎の町見えわたり 長浜の草色とまじる 海人の葛屋敷

★崖下に 干潟ひろがり物もなし ひそけきゆうべ 波のよる音→万葉そのもの
 
★静かなる夕さり深き波のおもー。海より風の吹く 音もなき

★かたよりて 雲の明かりの なほ著き海坂につきて、佐渡 低くあり

★ひろびろと 空照り返す曇り波 鵜の鳥ひとつ居る岩 見ゆ

★曽我寺の岡にのぼれば わかれ見ゆー。日向 山瀬野 村の家々

★山くらく 幾日降りつぐ雨ならむ。今日も とぼしき村をのみ 過ぐ

★たたずめば ひたに思ほゆ 山深く かく入り立ちて 我は還らじ

枯山に向きて 我が居る時長し 尾長鳥など また居なくなる

★うしろより 風鳴り過ぐる広き道ー。からだ冷えつつ ひとり歩めり

レビュー投稿日
2018年3月5日
本棚登録日
2018年3月5日
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