クァジーモド全詩集 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2017年7月15日発売)
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4

好きな詩風。『傍観』を感じるかな。もうそうなってしまったのだと、現実や変移に対しての無防備さが備わっていると思う。だから紡がれる言葉が、作ったものというよりは、『流れて来たもの』という印象を抱かせる。

参考にしたいところはあれど、自分のこれから作っていくのは、やはりこちらの方向にはなく、原民喜や古今などの系譜にあるのかなと改めて確認した。




①日は傾き


ぼくは荒廃している、主よ、
あなたの真昼のなかで、
あらゆる光に閉ざされたまま。


あなたがいないので怯えている、
失われてしまった愛の道
そしてぼくに恩寵はなく
ぼくの意志は枯れてしまい、
小声で祈り唄うことすらできない

ぼくはあなたを愛し罵倒してきた
いま日は傾き
ぼくは空から影をひきずりおろす、
ああ悲しくも貪欲な
ぼくの心よ!


②爽やかな海辺

あたりを揺るがしてたったいま
蠢いていた波を
新しい波が打ち砕き
光と砂礫とを引き出してゆく爽やかな海辺よ
ぼくの命はあなたに似ている

揺り動かされ目覚めてはあなたに聞き入る、
そして途切れれば自失するぼくの空、
夜目にも清らかに浮かびあがる木立ち



③鏡

またもや幹を
破って出る芽
心を和ませる
草よりも新しい緑
水辺に身を折り曲げて
死んだかにみえた幹

すべては奇蹟とぼくの目に映る。
そして今日は小川のなかに
空よりも青いかけらを映し出す
あの雨水はぼくだ
そして樹皮を裂いて出る
あの緑も昨夜はなかった。


④夜の小鳥たちの隠れ家

高みに一本のよじれた松がある、
弓なりに幹を差し出し、
一心に奈落の音を聞いている。

夜の小鳥たちの隠れ家
ものみな死滅した時刻に響きわたる
すばやい翼の羽ばたき。

ぼくの心にもその巣がある
暗闇に吊るされて、一つの声がある
そして夜更けには、耳を澄ませている。


⑤沈んだ木笛

願い求めた寂寞の
この最後の時までも、惨い苦痛よ、
あなたは贈物を届けてくる。

冷たい木笛がまたも奏でる
ぼくのではない、尽きない緑の
葉の喜びを、そして記憶は薄れてゆく。

ぼくのなかに日は暮れてゆく、
草のような手のひらに
水が垂れこめてくる。
虚ろな空に翼は飛び交い、
消えてゆく。心はいま移りゆく
そしてぼくは荒れ果てた土塊だ

そして日々は崩れ落ちた石屑だ


〇耐え忍ぶ一日を

耐え忍ぶ一日を
あなたに委ねます、主よ、
癒されることのない病、
退屈に膝は砕けてしまった。

ぼくは棄てる、ぼくは棄てる。
春の叫びよ、
ぼくの目はをふさぐ土には
もう森が生えてきた

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感想投稿日 : 2017年9月27日
本棚登録日 : 2017年9月27日

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