木山捷平全詩集 (講談社文芸文庫)

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レビュー : 6
著者 :
yuzuringo102さん  未設定  未設定

よい。季節と土着の作家という感じかな。土臭さとユーモア、底抜けの明るさや屈託のなさが感じ得られる。環境や生物に自分を映すことの卓越性。

◎以下引用


朝っぱらから
山畑へ行って畑を打つと
みみずが出て来て
ぴんぴん
ぴんぴん
土の中からとんで出て
どいつも
こいつも
ぴんぴん ぴんぴん。
おらら百姓
土の中から生まれたおらら
さあ皆んで手をつなげ
みみずのやうに
ぴんぴん
ぴんぴん
やらうじゃないか。



・雨のもる音


何日も何日も霧雨がつづいて
屋根は腐れてしまうた。
そして今夜もこのどしやぶり!

バケツをうけ
たらひをうけ
どんぶりをうけ

部屋の隅に煎餅布団を敷いて入ったが

雨のもる音はさびしいのう
茂助よ
われもねられないできいてゐたのか
よつぴて雨のもる音は
駐在所の巡査よりも
山の狼よりもこはいのう。




・二月二十八日

ほんの少し小雨が降ってゐた。
貧乏人ばかり住んでゐる町に
花売りが花を売りに来た。

車の上に際立って
桃のつぼみが赤かつた
僕はやつと
今年も雛祭りの近いことに気がついた


・その下で

たうもろこしの花が咲いてゐた。

裏の
畑の
月夜

その下で逢って別れた


◎からたちの垣根


からたちの垣根があつて
その中は大きな邸であつた

邸の中から
ピアノの音が聞こえてゐた

八百屋の御用ききが
垣根の外に佇つてそれを聴いていた
ほさきのやうに冴えてゐた


◎裏長屋の秋晴

裏長屋に
秋のお日様が照つてゐた。

トウチャンは
仕事がなくて昼寝

カアチャンは
井戸端でオシメのお洗濯

赤と白とのコスモスが
井戸端の横で咲いてゐた


◎山


山に来て居れば
蛇だつて、蜂だつて、百足だつて
山の生物は
みんなおれらの友達だ

半日、山仕事をして
昼弁当食って
草の上にねころんで昼寝をしていると
おれの頭の上をぞろぞろ青大将が通つた。

おれがその音に眼をさまして、ぼんやりと、
松に咲く松風をきいていた。
ききながら
松の木の間の青空を見ていた


◎神戸のマッチ工場から帰ったおしの


下記の下の野風呂に入って
おしのはどんぶり音まで沈んでゐた。

ーおしのさん、たいちやろか?
ーいいえ、えいあんばい!


神戸のマッチ工場から帰ったおしのは
久しぶりのやうに空を仰いでいた
ーきれいなお月さんじやろ!

柿の茂みの間から
お月さんも久しぶりにおしのを見てゐた

ーおしのさん、神戸はえいとこかい?
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

おしのはめつきりやせていた
そして青白くなっていた

ーおしのさん、もう神戸なんかへ行かんとけよ。
ーええ、もう神戸なんかへ行かんわ

どこやら向こうの石垣で
チンチロリンがないていた



◎時雨

やきたての焼芋を
ふきふき食うとるとー
時雨がわたつて来た。

ぱら
ぱら
ぱら 
、、、、


汚いすべりを敷いた部屋には
おれと
かかと
五燭の電灯と

このごろめつきりからだの痩せたかかは
首をかしげて
じつとその音に耳をすませた



◎牛屋



新しい藁を切り込んでやつたら
ごろりと うれしさうに
メス牛はその上にねそべつた
ねそべつて
ゆるゆる反芻をかへしはじめた。

秋のおてんとさまが
牛屋の中まで照ってゐた。



◎冬眠していた蛙


さつま芋を掘つとると
冬眠していた蛙が
鍬の先から
たまげた風をして飛び出した

おらあ、なんだか寒さうに思うて
泥をかぶせてやつたが
土蛙ぁ
又むくむくといざり出て
ぴょんぴょんと何処やらへとんでいった

秋日和の畑の上を
まるで知らん世の中のように
おどおどしながらとんでいった


◎ミミズの詩


目がなくとも
鼻がなくとも
かまふものか
行け!
進め!
行け!
進め!
久しぶりに雨が降って
いいしめりじゃ
行け!
進め!
行け!
進め!
手がなくとも
足がなくとも
かまふものか
からだをのばし叉ちじめ
からだをのばし叉ちじめ
行け!
進め!
行け!
進め!
俺たちは
おれたちの力で
行き着くところまで行きつけ!




◎意志



頭もない 腹もない
トカゲの尻つ尾が
ピンピンはねていた

炎熱の
道の
まんなかでー




◎夕暮れの町から歸るこども


久しぶりに髪を切って
夕暮れの町を歩いてかへつた

両側の店にはもう明るい電灯がともって
あちこちからさかなを焼く匂いがにほつて来た。

町を出ると田園だった
田園の上を秋風が吹いていた
あらあ、刈りたての坊主頭が寒いので
手ぬぐい頬がむりして歩いた
歩き歩き、今夜の晩飯の
おかずのことを考えた




◎ブランコ



空がどんより曇ってゐた

ぶらんこが
ダレカ のつかつてほしいわ

そんな顔をしてぶらさがっていた。

私は乗っかった
乗っかったら網が切れた
網が切れてしりもちをついた

私はくびをきられた男であった




◎遠景


草原の上に腰を下ろして
幼い少女が
髪の毛を風になびかせながら
むしんに絵を描いていた
私はそっと近寄って
のぞいて見たが
やたらに青いものをぬりつけて居るばかりで
何をかいているのか皆目わからなかった
そこで私はたづねて見た
ーどこを描いているの?
少女はにっこりと微笑して応えてくれた
ーずっと向こうの山と空よ
だがやつぱり
私にはとてもわからない
ただやたらに青いばかりの絵であつた



◎青草の上で

あふむけに
あを草の上にねたら
あたまの上にひるがほが咲いてゐた。
ひるがほの葉かげに
雨蛙が一ぴき
からだをまるめてねむつていた
風がふくたびに
草が私の顔をなで
私はただぼんやりと草の間から
空を流れる雲をながめた



★◎平気な顔


さき濁りした雨水が
小溝いつぱいにあふれてゐた。
溝の中に一本
細長い水草がぬきんでて
流れにつれて揺れてゐた。
その茎に
へんな恰好でしがみついて
雨蛙が一ぴき
平気な顔で空を眺めてゐた。


◎夕月


さく さく さく
草を刈る音がきこえて来る。

ー刈り手は誰だらう?

夕月がほんのり
野面をてらしてゐる。



◎雨あがりの朝

雨あがりの朝ー
しめりのいい校庭に朝日がさして
ひろびろと広い校庭よ
女の子がひとり
はや学校にやつて来て
ひとりでまりをけつて遊んでゐる。
白い新しいまりを追ひかけ
追ひかけてはけつて
ひとりでかけまはつて遊んでゐる。
さくらの若葉がきらきらと
朝の微風にかがやいてー
ひろびろと広い校庭の朝よ



★◎午後の一時

午後の一時
そこの小学校のベルがなつて
子供達のざわめきがはたと止んでしまひ
この森のあたりが
太古のやうに静けさに浸された
背中にひややかな感触を覚えながら
草の上にあおむけになってゐると
職のない、そして、
貧しい一人の男の頬をも
微風はさわやかになでてくれる
こんなにもなつかしい静けさの中で
かうして今日も亦
さみしさを淋しんでゐると
ぼくのあたまの上で
時をおきつつ鳴いてゐる
小鳥の声の
いとほしさ
ぼくの目は
木の枝から木の枝へと

一匹の小鳥の居所をさがしはじめた


◎そばの花


うらぶれて古里にかへれば
なにゆゑともなくはづかしい。


なぞへ畑に咲いてゐるそばの花よ
今日はなんにも訊かないでおいてくれ

少年の
瞳のやうな白い花よ



◎釣


こんな風に不健康で居ると
今日はしきりに春が待たれる。

ああ、何年振りでか
来春は小川へ釣りにでかけよう

金儲けはできぬからだである
ましてえらいひとになることはー

せめてー春になると水がぬるんで
川魚たちがたのしくあそんでゐる

ああそこへ、つれてもよいつれなくてもよい
一本の竿をおもむろにさしのばそう


◎冬の魚

こんな寒い日のあとには
あったかい春がくるのを知っているのだろうか
川の子魚はよどみの中を
ちらちと泳いでいる
このごろは
せなかがいつになく黒く
水に沈んだ小石の如く
腹はほっそりとやせていて
銀のやうにつめたくひかる
土橋の上からひどい足音をさせても
なんの恐れるやうすもなく
それでもひれを動かし尾をふつて
小魚はよごれた水草のかげでくらしている


◎白いシャツ


旅でよごれた私のシャツを
朝早く
あのひとは洗ってくれて
あのひとの家の軒につるした。
山から朝日がさして来て
「何かうれしい」
あのひとは一言さう言った


★◎ちぎれ雲


家のまへの
槙の木かげにゴザを敷いて
あふむけに寝てゐると
槇の梢をいい加減な速力で
秋のちぎれ雲が流れて行く。
私と少しはなれて
あのひとも
私とおんなじ雲をながめてゐる。



◎涙

夜が更けて
つるし柿をむいてゐるおばあさんの目に
涙がたまつてゐた。

何のなみだか
かんてらの灯にひかつてゐた


◎★秋


新しい下駄を買つたからと
ひよつこり友達が訪ねて来た。
私は丁度ひげを剃り終へたところであつた。
二人は郊外へ
秋をけりけり歩いて行った


◎昼の夢

暗い村の夜更け、私の柩は
雨も降ってゐるのに
山の焼きへはこばれて行つた。

青い松場に火をつけると
松場がじりじり私の裸身に燃えうつり
*****************

私は遠くから、家の前に立って
雫に濡れながら
じつとその火を見つめてゐた。


◎五十年


濡縁におき忘れた下駄に雨がふってゐるやうな
どうせ濡れだしたものならもっと濡らしておいてやれと言ふやうな
そんな具合にして僕の五十年も暮れようとしてゐた。

レビュー投稿日
2020年11月24日
本棚登録日
2020年11月24日
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