死の棘 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1981年1月27日発売)
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本棚登録 : 1772
感想 : 140
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 いや、日本初のヤンデレ小説がここまで凄いとは思わなかった。
 この600ページほどの本書に書かれているのは、嫁と子供をほっぽりだして放蕩生活を送ってきた著者が、結婚10年目にして遂に妻が発狂してしまいひたすらそれに翻弄されていくザ・出口無しの日常。夫婦喧嘩は犬も喰わぬとはよく言うが、延々とそれに向かい合わさせられる読者にとってはさぞぐったりすること請け合いでしょう。
 でも、ある意味どこの家庭も今時どっか壊れているものじゃないの?所謂「幸せな家庭」なんて20世紀末の高度経済成長にしか成り立たない幻想みたいなもんじゃなかったの?わかんないけどさ、自分とかは親父が欝で両親が一時期変な宗教にはまってたり、兄貴とそりが合わなくてひたすらに虐められてたりして家庭に居場所なんか全くなかったりしたけどさ、それでも何とかこーやって生きている訳で。はは。逆に一見問題なんか何もない家庭に生まれていてもその子供が健全にすくすく育つ訳でもないんだからさ。
 閑話休題。本書で何より凄いのは、著者が罪悪感に自覚的で在るが故に、自分自身を徹底的に貶めて書いていること。たぶん、読んだ人の殆どはこの著者である夫にいい思いはしないだろう。でも、著者はそれを省みずに、そう思われることを承知の上で徹底的に書いた。普通、吐く。にも拘らず書いた。何のために?贖罪として?
 読んでいて、ああ、宗教というのが何故必要とされるのかがちょっとだけわかった気がした。(著者はこの体験の後キリスト教の洗礼を受けている)科学では救われない、それが嘘だとしても構わないようなどうにもならない心というのも確かにあるんだよ。君や僕の様にね!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2011年11月20日
読了日 : 2010年2月22日
本棚登録日 : 2011年11月20日

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