佐々木譲『諜報3部作』中の最高傑作だろう。スペイン内戦で人間の醜い内面を垣間見て絶望した日系アメリカ人のケニー斉藤が米軍のエージェントとして帝国海軍の情勢を探るため北方領土に潜入。そこでロシア人とのハーフとして生まれ、奔放に生きてきた岡谷ゆきと邂逅する。寄る辺ない人生を送ってきた二人が交錯し、日米開戦前の緊迫した状況が拍車をかけ、物語は悲劇的ラストへと疾走する。不条理というのは実存哲学の専売特許なのだが、普通に暮らす僕らもやるせない気分になったり、疎外感を覚える。だから、アウトサイダーへの共感は強くなる。また、ケニー斉藤を追跡する憲兵隊の磯田曹長の実直な態度を描くことで、労働階級の日本人の美質としての勤勉さにも賛意を送っているように見える。佐々木譲の屈折が抒情的に結実した珠玉の名作。
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スリラー
- 感想投稿日 : 2011年11月19日
- 読了日 : 2011年7月
- 本棚登録日 : 2011年11月19日
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