増補 聖別された肉体: オカルト人種論とナチズム (叢書パルマコン02)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422202945

作品紹介・あらすじ

現在においても、公認文化から排斥され、深層に抑圧された無意識的な概念の表出する舞台であるオカルティズム。
それは近代ヨーロッパにおいて社会ダーヴィニズムと接合し、とりわけナチ・ドイツにおいて、フェルキッシュな人種論として先鋭化、ついには純粋アーリア=ゲルマン人種のホムンクルスを造らんとする計画が「生命の泉」で実行に移されようとするまでに至った。
ヨーロッパの底流に流れるそのオカルティズムの全体と本質を初めて明らかにした幻の名著がついに増補再刊。
叢書パルマコン第二弾!
※初版は、1990年に書肆風の薔薇(現、水声社)から刊行。

感想・レビュー・書評

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  • すごい。
    普段から自分の抱いてる内的感覚とオカルトや神秘主義等との距離が非常に近いことに気づかされた。自分とかけ離れ、突飛でバカバカしいという見方を持っていた世界も、一枚皮を剥がしその内側を分析するなり、予想外の真実に触れられる。
    著者のリサーチ力に大きな拍手を送りたい。

  • いまだ類書は未見の増補再刊納得な永く読み継がれるべき書物。
    不潔で不快だが魅惑的で心惹かれずにいられない秘教的人種主義の薄暗い系譜とナチズム生成へと至る裏面史を活写。
    稗史が正史を侵食し悪夢が現実を食い潰しゆく様がボクの歪んだ嗜好性癖を刺激する(^_^;)
    トゥーレ協会やアーネンエルベについて詳述する箇所は必見と思う。

  • 90年に刊行されたものを30年ぶりに加筆修正復刊。ナチの人種政策にオカルトがどのように影響を与えたのかを、膨大な資料を使ってたどった力作。オカルトといっても、80年代に流行った軽佻浮薄なシロモノとは訳が違う。執筆にあたってそのへんのブームを横目に見ていた当時の空気をあとがきで振り返っている。


    なにはともあれまずはブラヴァッキー「秘奥の教義」1888があり、その影響下ウィーンのランツフォンリーベンフェルス博士の「神聖動物学」1905が書かれた。ランツは書いている。
    翼を待った人間がかつて存在し、この高次の原人類は猿人ウドゥミ(アダム)を好み、それらと交わり堕落した。逆に獣人たちはより高次に格上げされた。この両者の関係は今でも続いている。

    p26
    『神聖動物学』の発表された時代が、物理学が長足の進歩を遂げた時代でもあったことを想起してもらいたい。レントゲンによるX線の発見、キュリー夫妻による放射能の発見、無線電信、こういった十九世紀末から二十世紀初頭における不可視の粒子や波動の発見は、人々の想像力を大いにかきたてていたのである。かくて、ランツによっ て、松果体は一種の検波管であり、「脳下垂体や松果体は電気的な器官だった」と断定される。聖書とオームの法則が並行して引用されて導き出されるのは、「神々は生ける電気受信局であったばかりでなく、発電所、放送局でもあった」という結論である。換言すれば、神々は、この高次の感覚器官を用いて、自由に意志、思考などを発しまた、受け取ることができたのだ。そして再び、ランツの議論は特異な人種論、進化論へと立ち戻る。

    今日でも、彼ら面々は人間の中に生き続けている。神々は猿と化した人間の肉体の中に眠っているが、しかし、彼らがふたたび蘇る日がやってくる。我々はかつて電気的な存在であった。そして、我々は電気的になるであろう。電気的であることと神的であることは同一なのだ!電気の眼によって原人類は全知であり、その電力により全能であった。全知全能の存在であるものは、神を自称する権利を持つのだ!

    忌まわしい人種混合によって失墜した高等人種が「電気の眼」を持つに至るまで再進化する日を、彼らが再び全知全能の神にまで昇りつめる日を、ランツは夢想する。その暁には、人類は肉の交わりではなく「電子の放射」によって生殖を行うとまで、彼は予言している。

  • 狂気とは決して現実の対立項ではないっていう話。

    オカルティズム全般が完全にネガティブな物ではないとはいえ、優生思想や社会ダーウィニズムやフェルキッシュオカルティズムに繋がっていく可能性があるので、オカルト系の取り扱いには充分注意が必要だなー、と。


    『ドイツで起こった異常な事態は、一部の狂人の責任に帰せられるものでは決してなく、人間精神に内在する抑圧されてきた欲望と恐怖の噴出に他ならないことは銘記せねばならない。』

    『オカルティズムとは公認文化から排斥され深層に抑圧された概念、思想、世界観の表出する舞台であり、敢えて粗雑な言い方をするなら、公認文化を意識とすれば、オカルティズムは無意識なのだ。』

  • “オカルティズムとは世界を非「正統的」な方法で認識、再編しようとする試みである。そのとき、オカルティズムは、ある意味で「正統的」世界認識によって抑圧された私たちの無意識の欲望を映し出す鏡として、その欲望を保存し、あるいは肥大化する容器としても機能する。「正統的」世界認識と非「正統的」世界認識が織り混ざりあったものこそ、私たちの精神に投影される世界の真の姿である。”と書かれるように、ナチズムのもつ優生思想や社会ダーウィン主義と、その裏にあるフェルキッシュオカルティズムを同時に眺めることによって、19世期から20世期序盤の時代精神を読み解こうとする試み。

    つまりは、その当時のユダヤ人種の人口膨張や、それによるアーリア人種のマイノリティ化という現代アメリカでも起きている現象だったり、近代合理主義が勃興する中でのアンチテーゼとしてのオカルティズム復興や、ダーウィンの進化論やメンデルの遺伝法則の発見などサイエンスが進化する中で今見れば疑似科学であるものの、魔術=合理的な高次の科学として世界を説明しようとする欲望の噴出など、ナチズムはある日突然現れたわけではないということが見えてくる。

    神話における人獣交合、アトランティス起源説などまで触れられる労作。この領域は不勉強で知らない単語が頻出したため読了までに苦労したが、歴史を眺めるにあたって新たな視点を獲得できたように思える。

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著者プロフィール

1954年大阪府生まれ。英文学者、作家。京都大学文学部卒、博士(文学)。奈良女子大学名誉教授。筆名に稲生平太郎、法水金太郎など。著書に『神の聖なる天使たち―ジョン・ディーの精霊召喚 一五八一~一六〇七―』(研究社)、『異形のテクスト―英国ロマンティック・ノヴェルの系譜―』(国書刊行会)、『増補 聖別された肉体――オカルト人種論とナチズム』(創元社)、稲生名義で『アクアリウムの夜』(書肆風の薔薇、のちに角川スニーカー文庫)、『アムネジア』(角川書店)、『定本 何かが空を飛んでいる』(国書刊行会)、『映画の生体解剖―恐怖と恍惚のシネマガイド―』(高橋洋との共著)(洋泉社)など。編著書に『危ない食卓―十九世紀イギリス文学にみる食と毒―』(新人物往来社)、水野葉舟『遠野物語の周辺』(国書刊行会)、『日影丈吉全集』全9巻(日下三蔵との共編)(国書刊行会)など、翻訳書にマーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』(新人物往来社)、J・G・バラード『残虐行為展覧会』(法水名義)(工作舎)など多数がある。

「2023年 『コンスピリチュアリティ入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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