増補 聖別された肉体: オカルト人種論とナチズム (叢書パルマコン02)
- 創元社 (2020年8月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784422202945
作品紹介・あらすじ
現在においても、公認文化から排斥され、深層に抑圧された無意識的な概念の表出する舞台であるオカルティズム。
それは近代ヨーロッパにおいて社会ダーヴィニズムと接合し、とりわけナチ・ドイツにおいて、フェルキッシュな人種論として先鋭化、ついには純粋アーリア=ゲルマン人種のホムンクルスを造らんとする計画が「生命の泉」で実行に移されようとするまでに至った。
ヨーロッパの底流に流れるそのオカルティズムの全体と本質を初めて明らかにした幻の名著がついに増補再刊。
叢書パルマコン第二弾!
※初版は、1990年に書肆風の薔薇(現、水声社)から刊行。
感想・レビュー・書評
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すごい。
普段から自分の抱いてる内的感覚とオカルトや神秘主義等との距離が非常に近いことに気づかされた。自分とかけ離れ、突飛でバカバカしいという見方を持っていた世界も、一枚皮を剥がしその内側を分析するなり、予想外の真実に触れられる。
著者のリサーチ力に大きな拍手を送りたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いまだ類書は未見の増補再刊納得な永く読み継がれるべき書物。
不潔で不快だが魅惑的で心惹かれずにいられない秘教的人種主義の薄暗い系譜とナチズム生成へと至る裏面史を活写。
稗史が正史を侵食し悪夢が現実を食い潰しゆく様がボクの歪んだ嗜好性癖を刺激する(^_^;)
トゥーレ協会やアーネンエルベについて詳述する箇所は必見と思う。 -
狂気とは決して現実の対立項ではないっていう話。
オカルティズム全般が完全にネガティブな物ではないとはいえ、優生思想や社会ダーウィニズムやフェルキッシュオカルティズムに繋がっていく可能性があるので、オカルト系の取り扱いには充分注意が必要だなー、と。
『ドイツで起こった異常な事態は、一部の狂人の責任に帰せられるものでは決してなく、人間精神に内在する抑圧されてきた欲望と恐怖の噴出に他ならないことは銘記せねばならない。』
『オカルティズムとは公認文化から排斥され深層に抑圧された概念、思想、世界観の表出する舞台であり、敢えて粗雑な言い方をするなら、公認文化を意識とすれば、オカルティズムは無意識なのだ。』 -
“オカルティズムとは世界を非「正統的」な方法で認識、再編しようとする試みである。そのとき、オカルティズムは、ある意味で「正統的」世界認識によって抑圧された私たちの無意識の欲望を映し出す鏡として、その欲望を保存し、あるいは肥大化する容器としても機能する。「正統的」世界認識と非「正統的」世界認識が織り混ざりあったものこそ、私たちの精神に投影される世界の真の姿である。”と書かれるように、ナチズムのもつ優生思想や社会ダーウィン主義と、その裏にあるフェルキッシュオカルティズムを同時に眺めることによって、19世期から20世期序盤の時代精神を読み解こうとする試み。
つまりは、その当時のユダヤ人種の人口膨張や、それによるアーリア人種のマイノリティ化という現代アメリカでも起きている現象だったり、近代合理主義が勃興する中でのアンチテーゼとしてのオカルティズム復興や、ダーウィンの進化論やメンデルの遺伝法則の発見などサイエンスが進化する中で今見れば疑似科学であるものの、魔術=合理的な高次の科学として世界を説明しようとする欲望の噴出など、ナチズムはある日突然現れたわけではないということが見えてくる。
神話における人獣交合、アトランティス起源説などまで触れられる労作。この領域は不勉強で知らない単語が頻出したため読了までに苦労したが、歴史を眺めるにあたって新たな視点を獲得できたように思える。