いやあ、これは驚きました。実に面白かったです。英語の本では今年一番。
これまで英語の勉強として、ポアロ(アガサ・クリスティー)やらホームズ(コナン・ドイル)やら読んできました。しかし、手が止まらない、次のページが読みたい、英語が苦にならない(ずっとじゃないけど)という体験は初めてでありました。
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さて、本作を読んでまず第一に感じたのはその引き込む力です。
Metcalfeの幼少時の悪だくみ、メールボーイとして株屋で働いていた時に稼いだ驚きの方法(現在ならばコンプラ的に完全アウト)、また被害者4人が4人独自の騙し返しプランを実行するなど、ほぼ常に展開にハラハラさせられ、ついつい手繰る手が止まらないという作品でありました。
さらに被害者=主人公4人の異なる個性が物語を一層豊かに彩ります。
Oxfordで研究員をするStephenは米国人。翌年にHarvardでの専任講師の枠が決まっており、今回の司令塔的役割。オヤジの遺産を投資してスってしまいました。美術商Jean-Pierreは名前からしてわかる通りフランス人。すぐに女性を口説こうとしたり、シニカルな発言が多く、スパイシー担当。医師のRobinはロンドンの開業医。イケメンで奥さんと子供二人の家庭、財産も地位も築くも、何不自由ない生活にちょっぴり飽きてしまい大枚を投資してみて大失敗。Jamesは親の庇護の下ぬくぬくと仕事もせずに生きてきたボンボン。役者の道を目指すも親から反対されプーのままでいたとき、儲け話で親を見返そうと田舎の土地を抵当に入れて借財して投資、そしてまんまと騙される。
出自や専門はそれぞれ異なるのですが、その異なる個性を発揮して、4つのプロジェクトでそれぞれの専門や得意分野でMetcalfeを騙し返すのです。
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もうひとつ。主人公たちのモットーは、やったらやり返す、ただしぴったり一倍返し、なのですが、その舞台の多くが英国の由緒ある情景であったりします。ですから英国好きにはきっとたまらないことと思います。
例えば、ウインブルドンでMetcalfeの行動を探るとか。また競馬のAscotでMetcalfeを騙すきっかけを作りますが、彼の馬がKing George VI and Queen Elizabeth Stakesで勝利を収めたりします。さらにOxfordのEncaeniaという格式ある行事でMetcalfeをハメるなど、かの地のエスタブリッシュメントの雰囲気がわかる方ならより楽しめるのではないかと思います。
それ以外にもAnnabelというロンドンで有名なクラブとかも出てきます。庶民のハイソへの憧れをくすぐります。
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ということで、本来忙しくしないといけない時期でありましたが大分こちらを優先させてしまい、2週間程度で読み終えました。それくらい面白かったです。
最後はJamesの恋愛含めてハッピーエンドで終わるのですが、ラスト30ページほどのツイストには驚きとニヤニヤがたまらない展開でした。すごい。ぜひ読んで欲しい。
筆者は国会議員を務め、その後詐欺で財産をスって、その経験をもとに本作で作家デビューを果たされた方。議員での実績は存じ上げませんが、デビュー作でこれだけ面白いのならほかの作品はもうどうしたって面白いはず。周辺作品も少しずつ読んでみたいと思います。