靖国神社 せめぎあう<戦没者追悼>のゆくえ

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000023221

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  • 高橋哲哉「靖国問題」ちくま新書とは全く違った観点から教えられることが多く、目から鱗が落ちる思いがしました。靖国神社が戦後、GHQによる45年12月の神道指令の後、平和主義に向かった時期。そして60年代終わりから70年代初めの国家護持法案が廃案になった後は徐々に戦争礼賛の方向へ向かい、その流れの中で79年に敢えて意識してA級戦犯を合祀する意図。それは「すべて日本が悪かったという東京裁判史観を否定しなければ、この国の精神復興が立ち行かぬ」という松永永芳宮司の積極的な意思だった。小泉首相が靖国の考えには賛成しないとしながらも、平和のために祈りを捧げるという説明をすることは、「平和」という言葉が戦前においても戦争をする目的の中で語られた意味に一致すると考えざるを得ませんでした。そしてA級戦犯を合祀する動きの中で直前に徳川侍従長が「昭和天皇の<戦争を仕掛けた人もいる>という不服の意思を伝え、今後天皇の参拝がないだろう」と伝え、にも拘らず、宗教法人としての神社の判断により合祀した意味合い。衆議院で可決した後に参議院の与野党伯仲化により国家護持が薄氷を踏む思いで否決された後の神社側の首相公式参拝にこだわるのも、そもそもの神社の設立経緯から出ているものであることも納得性がありました。(そういう意味では日本は死者の墓をあばくようなことはしないという言葉の矛盾。脱走兵として刑死した戦争犠牲者を、厚生省からの報告に基づきわざわざ選び出して顕彰しない!)天皇のために勇敢に戦った忠臣を死者の中から選び出して顕彰する施設であって、決して国民全体また全世界の犠牲者の追悼・慰霊の施設ではない靖国神社の存在の怖さを改めて心に刻みました。キリスト教会だけでなく、浄土真宗、また立正佼成会の反靖国の動き、参拝違憲訴訟にも詳しく、非常に内容の濃い本でした。

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著者プロフィール

赤澤 史朗(立命館大学名誉教授)

「2020年 『戦中・戦後文化論 転換期日本の文化統合』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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