敗北を抱きしめて〈下〉― 第二次大戦後の日本人

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000244039

作品紹介・あらすじ

敗北を抱きしめながら、日本の民衆が「上からの革命」に力強く呼応したとき、改革はすでに腐蝕しはじめていた。身を寄せる天皇を固く抱擁し、憲法を骨抜きにし、戦後民主改革の巻き戻しに道をつけて、占領軍は去った。日米合作の「戦後」がここに始まる。敗北からの蘇りと簒奪された改革を壮大に描いた20世紀の叙事詩、完結。ピュリツッァー賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 市井の人々の姿を描いた上巻は実はさほど胸に迫ってこなかった。時間関係が読みづらいし、半藤一利さんの方が実感もあるし、と。下巻、特に四部がすごい。アメリカにも天皇にも市井の日本人にも徹底した厳しい目線で何が起こったのかを描き出している。日本人は必ず本書を読まなければならない、そして正に現代日本の礎となったこの時代を噛み締めて、明日から自分の足で歩むことを考えなければいけない。

  • 少し前に読んだ半藤一利『昭和史』とも事実の不整合はないようだし、日本人の心情にも踏み込んで描かれ、よくぞここまで。しかし「日本人がひたすらに経済成長を追求した背景には、(略)国としての誇りを求めてやまない、敏感で傷ついた心情があった」となると、ちょっと情緒に寄り過ぎかなあとも思う。
    歴史は、情と理との両輪で分析しないといけないね。

  • 敗戦後の切実な民衆の生活状況から屈折した思い、変わらない日本人、指導者の性質、日米合作による戦後の日本らしさの形成など、占領期の日本について鮮やかに記した一冊。
    個人的にはこの時代を生きた祖母が元気で話を聞ける時にこの本を読んで、もっともっと話を聞きたかったと激しく後悔した。
    新しくはないが是非読む価値がある本であると言える。



  • ジョンダワー 「敗北を抱きしめて 下巻」 戦後の日本民主主義、東京裁判、経済復興について論じた本

    西洋中心主義的な文体に 東洋に対する差別意識を随所に感じるが、混乱した日本において、短期間で 国家元首を象徴化し、軍を解体し非軍事化を図ったアメリカの民主主義移行手法は 見事だと思う(しかも 日本国民の反感なしに)

    アメリカが 広島や長崎へ原爆を落とした理由は、アジアに「人道に対する罪」を犯した制裁という論調だが、東京裁判において その「人道に対する罪」に対する訴追が一つもない理由がわからなかった

    日本と並存してアジアを植民地支配していたアメリカやイギリス、捕虜に対して残虐行為を繰り返したソ連が、東京裁判において、日本を「平和に対する罪」を犯したとして訴追しているのだから、「勝てば官軍、負ければ賊軍」そのものに思う。戦争には 正義や公正はない

    三人の吉田が印象に残る
    *自衛戦争すら放棄する立場をとった吉田茂
    *戦友たちの生きた記録を文学として遺した吉田満
    *目的の純粋さと悲劇的犠牲の象徴である吉田松陰

    パル判事「アジアの戦争でナチスによる虐殺に匹敵するのは、アメリカによる原爆投下のみである」


    エピローグの「経済成長によって〜日本は 束の間の大国となった」には著者の悪意を感じる

    天皇の戦争責任を回避して 日本の種を守りたい軍部と、軍部を解体するために天皇を利用したい占領軍の利害が一致し、軍部に戦争責任を負わせ、天皇を平和主義にして、天皇制民主主義を建設するというシナリオ



  • 2021年にもなり、戦前戦後を経験した世代はどんどん退場していく過渡期な気がする。あとの世代に何を伝えていくべきなのか。
    どんな視点でも構わないと思うのだけど、「何があったか」というファクトベースで考える時に、資料的価値は高い書なんだろうなと痛感する。

    ---以下雑感
    先の戦争で、日本も悲惨な目にあった。上巻での描写を見ると割りを食うのは間違いなく権力者ではなく市政の民。
    一方でアジアに進出して、様々な迷惑をかけたという側面もある。犠牲者であり加害者でもある。
    戦犯として処刑された人たちの手記が数多く出版されたという。こうした遺書は、戦争責任への意識を希薄にするという側面もあり、
    一方で軍国主義や戦争の人的コスト(悲惨さ)を描くという側面もあったという描写は、なるほど、と思う。

    天皇制についても、アメリカが廃止しようとし、日本側が守ったという単純な構図では無かった。
    GHQが占領政策に天皇を利用しようとし、日本の体制護持派が結託した。
    その為に、戦争責任も回避し、東京裁判でも天皇は裁かれなかった。

    憲法も押し付け憲法と言われたら、その側面ももちろんある。当時日本が作ろうとしていた憲法は明治憲法のリライトになり、今のような憲法ではなかった。
    GHQ草案を様々な形で日本化していった経緯は壮絶でもあるし、ある意味にとても日本的に思える。
    少なくともアメリカが作った憲法を唯唯諾諾と受け入れた、という味方は先人にも失礼になると思えてくる。

    GHQが日本を占領するにあたって、平和と民主主義といった理想的な思想を植え付けようとした一方で、
    検閲などのまったくもっての官僚組織対応が、後々の強い中央集権的な権力体制に繋がっていったというのは面白い。

  • 敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人
    (和書)2013年11月26日 23:02
    2004 岩波書店 ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 田代 泰子, 高杉 忠明


    こんな本が存在しているのだな。

    僕は知識人と弱者というものを考えた時に両者にある格差というものが格差の解消としての平等に対して究極的に盾として作用してしまうのではないかと懐疑していたのですがそういった考えが思慮の足りない浅はかな畏れでしかないと最近強く思い反省をしています。

    自分が知識人として何らかの権威として格差をつけるということではなく真の知識人とは弱者につき格差の解消を目指すべきものであるということを思う。それには知識をえて知識人であることが格差の解消としてある自然状態が高次元に回復する哲学を単独性としてある現にある前提から考えることに奉仕するものであり又複数性としての政治においてもそういった哲学による連帯に奉仕するものであると思う。

    非常に単純化して言ってしまえば格差の解消は平等であり支配とは格差をつけることであるからそれが解消されるということは支配からの自由であるということである。そういった平等と自由に関する哲学と連帯を考えたい。

    知識人の権威ではなく奉仕として格差の解消と連帯を目指さなくてはならない。

    そういった姿勢こそが哲学者に必要な絶対条件であると思う。

    この本を読んでいて知識というものについて考えさせられる。そして知識を得るということが哲学としてそして連帯としてあり得るために必要であると思った。

  • 2018/07/15

  • 第二次世界大戦で敗れた日本人が占領者のアメリカからの上からの改革にどのように反応したかを描く。占領当局は天皇が戦争責任を問われないようにと気を配った。それは日本占領を平和的に速やかに完了させ、新しい民主的な国を再建するためのものであったのか。

  • 戦後の占領期における状況を多数の図版でヴィヴィッドに描く。
    最後には、日本の官僚システムは戦前・戦中から引き継がれたものを占領軍が手を付けずに温存したもので、と指摘。

  • 2001年(原本1999年)刊。著者はマサチューセッツ工科大学教授。
     占領下の日本を叙述する上下巻中の下巻は、一般大衆に光を当てた上巻とは異なり、政治・権力側の動向を備に検討する。
     具体的には①昭和天皇の人間宣言、②天皇免責の欺瞞、③新憲法制定(旧帝国憲法の改正)、④米軍検閲の闇、⑤極東国際軍事裁判、⑥戦争責任と被害者意識。➆経済復興の道筋。なお増補版は未読。

     なかなか痛いところを突くなぁというのが正直な読後感。
     まず著者自身は、米軍の日本の占領政策において、人種差別的目線が無かったなどと綺麗事は言わない。また占領下での検閲の凄まじさも、具体的事実を一々列挙して米国占領政策の悪徳を開陳暴露する。

     しかしそれだけに止まらない。例えば、検閲に関して言えば、戦前・戦中の日本のそれは一層酷いという点も忘れていない。あるいは、東京裁判の茶番性につき、パル判事の称揚性という右派が喜びそうな撒餌をしつつ、その茶番性の真の要因が天皇不訴追にあることを彼方此方で仄めかす。
     また裁判官の構成に付き、印と比以外の東南アジア諸国の非白人代表を出せなかった点、朝鮮人の裁判官がいない点も勝者の裁きとしては実は不徹底だと目される叙述も。

     正直に言って、本書に横溢する発想は、占領政策全般への批判的目線を持つアメリカ人であるが故に叙述し得たものと言えそう。
     それが一番表出するのは、戦争責任に関する日本人の行動・行為。もとより米軍など占領政策を主導した立場のダブルスタンダードを指摘はしている。が、その上で日本人の加害に対する自覚や行動が窺えない(あるいは僅少)点もまた、それ自体がダブルスタンダードであるとして鋭く指摘していくのだ。

     かような本書の読後感はなかなか言語化しにくいものであった。


     ところで新憲法の制定過程に関しては、古関彰一著の「新憲法の誕生」と重なる。
     彼の類似テーマの書も数冊読破済みで新奇性は多くはない。
     もっとも米側から見た憲法改正過程への感情・思いは、さすが米関係資料渉猟の成果を感じ取れる。例えば、米から見て、日本側改正作業での対米欺瞞性(遅延性含む)、為政者側の憲法改正の要なしとの考えや改正案(松本案など)の内容が表出した、民主制や人間の尊厳を放逐し、これを軽視する姿勢。米側がこれに呆れ失望した様は十分見て取れる。一方、民間提起の改正私案の卓見を評価する対照性が、改正交渉過程での米側の様々な行動・言動に結び付いていったことを十分認識できる解説になっている。

     また、象徴天皇制という形で天皇制を維持するにしても、天皇退位推進が国内主勢力から起きず、またその実現の可能性が全くないと海外が看做してしまったこと。そしてこの不作為が対日信用度を大きく下げた可能性…。というように本書を読みつつ色々と想到してしまいそうだ。

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