最高裁に告ぐ

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000613316

作品紹介・あらすじ

ツイッターをやめるか、裁判官を辞めるか。自らの関与しない訴訟記事を紹介したツイートが原因で、現職の判事が「分限裁判」(裁判官の懲戒などに関する裁判)にかけられ、最高裁判事と対峙することに――。前代未聞の事態の当事者となって体験したこと、そこから見つめ直した司法、そして社会の現実を、平易な筆致で綴る。
なぜSNSを続けるのか。どうして「白ブリーフ判事」と呼ばれるようになったのか。最高裁、そして裁判所の変質の背景には何があるのか。この時代に、裁判官に本当に期待されることとは何なのか……。司法の未来を考えるために必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • 当該分限裁判の問題点については,説得的で興味深いですが,当事者の一方からの主張であり,色々な考え方があると思います。

    本書は,当該分限裁判の問題点のみならず,現在の最高裁の問題点も分かりやすく指摘されています。

    最近のNHK受信料に関する最高裁判決にも触れられていますが,この最高裁判決は結論はもちろん,法理論的にも納得のできるものではなく,政治的配慮が働いたのだろうと思わざるを得ません。
    最高裁の結論に疑問を抱いている人は多いのではないでしょうか。

    最高裁のあり方は,人々の利害に関わることでもあります。

    一裁判官の問題を取り上げた本と決めつけずに,多くの人が手に取って,最高裁について考える契機になればと思います。

  • 「ブリーフ裁判官」として知られる岡口裁判官の著書。まだ、読んでいる途中であるが、思うところがあり感想を記す。

    本の前半で、同氏に対する分限裁判と弾劾裁判の経緯について記されており、同氏の最高裁に対する批判が書かれている。

    弾劾裁判については、同氏のツイッターの書き込み内容と裁判官の職を弾劾するという罰の間に釣り合いが取れておらず、比例原則違反になると私も思う。

    一方、分限裁判については、同氏は手続保障が不十分であることや防御の対象がはっきりしないことについてを記している。具体的には、最高裁への申立書の内容が漠然としており、防御の対象が不明確である、分限裁判で最高裁が同氏に対し質問をしなかったことや最高裁が懲戒処分をすると不服申立ができないことから手続保障が十分でないことなどである。

    これらは法律論としては同氏の主張する通りであると思う。

    ただ、法律論を離れ、裁判所という組織が、従業員たる裁判官を懲戒する、という面から考えると、同氏の主張には賛同できない。

    例えば、私(コンサルティングファームのマネジャー)が実名と身分を明かした上で、民事訴訟で敗訴した被告や刑事事件の被害者のことをツイッター上で傷つけたら、私は会社から重い懲戒処分を受けるだろう。それが表現の自由の範囲内であっても。

    裁判官は独立しているが、それは他者からの圧力・干渉を受けずに判決を書く権利を保障しているのであり、職務を離れてツイッター上で好き勝手言っていいことにはならないと思う。

    被害者への謝罪がちゃんとしていないところに、同氏に対する強烈な違和感を感じる。

  • 著者は法曹界では著名の方らしいが、寡聞にして本書で初めて知った。
    著者はSNSに投稿した責を問われ処分を受けたが、その処分には表現の自由、裁判官の独立、判断を下した最高裁の論の進め方など様々な問題があるという。
    何よりも最高裁が国家に従順な裁判官を養成し、はみ出るものを排除しようとすることが何よりも恐ろしい。最近も原発裁判で物議を噛ました裁判官が異動させられるなど裁判の国家統制が進んでいるようにも見える。
    著者も社会人としてどうなのか、もっと上手な立ち振る舞いがあるのではないか、と思わせる部分もあるが、本書は勇気ある告発として賛同したい。

  • 「国民が「秘密のベール作戦」による裁判所の「情報操作」に対抗するためには、裁判官や裁判所の情報を収集して、司法の知識をもつことも重要である」P192

    知らないままでいることはこわい…。

  • 一般書としてこれが出ていることに拍手。司法に対する信頼を揺るがしているのは、発信している著者たちではなく、なりふり構わず抑え込もうとする、権威主義の「偉い」(と自認している)人たちだ。

  • 東2法経図・6F開架:327.12A/O38s//K

  • SNS(Twitter)にて、裁判についての情報を積極的に発信していた東京高等裁判所の裁判官である筆者が、分限裁判(裁判官の懲戒などに関する裁判)にかけられ、裁判官としての「品位を辱める行状があった」と判断されて戒告処分を受けた。

    筆者からすれば、「ありえない」判断と手続きの連続であり、その説明にも納得できることが無いわけではありません。
    筆者の主張する通り、最高裁が”王様”と化して自らの組織防衛を優先した決定を下した側面もあることは推察できますし(争点を明確化するために必要な手続きを怠ったという筆者の主張を否定できない)、憲法で保障されている表現の自由にかかる判断があったことを鑑みればそれについて言及することなく筆者に戒告処分の決定を下したことは拙速であったようにも感じます。

    一方で、このような事態がおこっていることそのもの(裁判官の表現の自由をめぐる問題提起や、最高裁判所の多忙による手続きの著しい簡略化とそれに伴う弊害)についての国民の関心,意識の低さについても問題だと感じました。単に最高裁のあり方を批判するのではなく(選挙に際して最高裁裁判官の信任投票がありますが、ほとんど機能していない実情を鑑みると)国民に対してこういった「危機意識」を喚起する書籍として、価値があると感じます。
    この事例に関しては、国会に置かれている裁判官訴追委員会が筆者に出頭を求めるといった進展がみられており、その後の動きに関しても注目したいと感じます。


    全体を通して、筆者の抱く問題意識などは理解できましたが、事件そのものの「インパクト」が強くないこと、大規模な報道がなされたとは言えず事前の情報が多くないこと、筆者の主張そのものは論理的であるとしても語り口がポップすぎて感情的な主張に聞こえる部分があることなど、「残念」な部分も見受けられました。

  • 『最高裁に告ぐ』
    著者:岡口基一
    ジャンル 法律
    刊行日 2019/03/27
    ISBN 9784000613316
    Cコード 0036
    体裁 四六・並製・カバー・216頁
    定価 本体1,700円+税

    ツイッターをやめるか,裁判官を辞めるか.自らの関与しない訴訟記事を紹介したツイートが原因で,現職の判事が「分限裁判」(裁判官の懲戒などに関する裁判)にかけられ,最高裁判事と対峙することに――.前代未聞の事態の当事者となって体験したこと,そこから見つめ直した司法,そして社会の現実を,平易な筆致で綴る.
    なぜSNSを続けるのか.どうして「白ブリーフ判事」と呼ばれるようになったのか.最高裁,そして裁判所の変質の背景には何があるのか.この時代に,裁判官に本当に期待されることとは何なのか…….司法の未来を考えるために必読の書.
    https://www.iwanami.co.jp/book/b440431.html

    【目次】
    プロローグ [v-x]
    目次 [xi-xiv]

    第I部 前史――私はいかにしてSNSを始めたのか 001
     1 法律情報ポータルサイトを立ち上げる
     2 SNS雑感――自分を「落とす」仕掛け
     3 白ブリーフ判事と呼ばれるまで
     4 二度目の厳重注意処分
     5 ツイッターをやめるか,それとも,裁判官を辞めるか
     6 ひとつの背景――裁判官訴追委員会の動き

    第II部 「分限裁判」とは何だったのか 039
     1 そして,裁判が始まった
     2 当事者となって知った手続保障の現実
      一 漠然とした申立て
      二 役割を放棄した最高裁
     3 弁護団とともに審問期日へ
     4 記者会見に臨む――「不意打ち」のあとで
     5 全員一致の決定
     6 分限決定を見る
      一 不可思議な事実認定
      二 ツイッターの特性に対する無理解
      三 スルーされた「表現の自由」と「裁判官の独立」
      四 「ちゃぶ台返し」の補足意見
     7 非公開で行われた裁判

    第III部 変貌する最高裁,揺らぐ裁判所 115
     1 続出していた不可思議な判決
     2 静かに進行する最高裁判事の「王様」化
     3 「王様」化をもたらす内部的要因
      一 最高裁における憲法判断の手法
      二 多忙ゆえの省略?
     4 最高裁判事はどのように選ばれているか
     5 「裁判官ピラミッド」で起きていること
     6 監視・批判勢力はいま

    第IV部 「司法の民主的コントロール」は可能か? 171
     1 裁判所の組織防衛術
     2 裁判官の「真の信頼」のために

    エピローグ 195

    巻末資料 最高裁「岡口分限決定」全文(二〇一八(平成三〇)年一〇月一七日大法廷決定)

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著者プロフィール

1966年生まれ。1990年東京大学法学部卒業。東京地方裁判所知的財産権部特例判事補、福岡地方裁判所行橋支部判事を経て、現在、東京高等裁判所判事。 著書に、『要件事実入門』(創耕舎、2014年)、『民事訴訟マニュアル──書式のポイントと実務 第2版(上下)』(ぎょうせい、2015年)、『要件事実問題集[第4版]』(商事法務、2016年)、『要件事実マニュアル 第5版 全5巻』(ぎょうせい、2016-2017年) 、『裁判官! 当職そこが知りたかったのです。──民事訴訟がはかどる本』(中村真との共著、学陽書房、2017年)、『要件事実入門(初級者編) 第2版』(創耕舎、2018年)。

「2019年 『裁判官は劣化しているのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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