サイボーグになる テクノロジーと障害,わたしたちの不完全さについて

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000615679

作品紹介・あらすじ

世界が注目するS F作家と、俳優にして弁護士の作家。ともに障害当事者でもある二人が、私たちの身体性とテクノロジーについて縦横に語る。完全さに到達するための治療でなく、不完全さを抱えたままで、よりよく生きていくための技術とは? 韓国発・新しい社会と環境をデザインするための刺激的な対話。韓国出版文化賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • S F作家のキム・チョヨプと、作家・弁護士・パフォーマーのキム・ウォニョン。ともに障害当事者の二人が、私たちの身体性とテクノロジーについて縦横に語る。


    克服すべきもの、根絶すべきもの、といった考えは、未来へのテクノロジー推進力として強いメッセージ性はあるけれど、今現在の当事者を置いてきぼりにしていないだろうか。
    なによりそれは「全ての人が望む正しい」考えではないのではないか。
    弱さや依存性を抱えたまま、よりよい快適な生活を望むことは。

    なんと表現したらいいのかわからないモヤモヤした気持ちを抱えていたので、心に響く言葉がたくさんあった。特に、”障害を抱えたままでも不自由なく暮らせる環境をつくろうという主張と、いつとは言えないがいつか登場する治療法に希望を託そうという主張のうち、あまりに後者に重きが置かれているのではないだろうか?”という一文にはっとさせられた。

    少しでも視野を広げて、偏見を減らしていきたい。もっと柔軟になりたいし、考えが変わることを恐れずにいたいとおもう。


    ”大きな車椅子に座った類人猿のような姿の自分を「欠けた状態(欠如)」ではなくその状態で「在る」のだと理解するころになって、科学技術は、障害のあるわたしが最先端の車椅子やロボットスーツで階段を上る時代、障害の遺伝の可能性が完全に排除された時代を開きつつあるのだ。”

    “見えない障害を抱える人は、障害の公表による利点(必要な助けを得られる)とスティグマの二つを天秤にかけざるを得ず、多くの場合、障害を隠して非障害者としてパッシングすることを選ぶ”

    “韓国の登録障害者の数は2018年現在、251万人で、人口全体の5%を占める。20人に1人なので決して少ないとは言えないが、日常で障害者を見かけることはあまりなかった。長いあいだ障害者は家や施設に隔離されていたからだ。”

    • チャイカさん
      nanao様の心に響いた言葉、私も同感です!
      うまく表現できない違和感を言語化してくれたり、読者(自分)の偏見に気付かせてくれたり、新しい思...
      nanao様の心に響いた言葉、私も同感です!
      うまく表現できない違和感を言語化してくれたり、読者(自分)の偏見に気付かせてくれたり、新しい思考を開いてくれたり… この本を読んだ後は物の見方が少し変わったような気がします。
      レビューが読めて良かったです、ありがとうございました☆
      2023/06/02
    • nanaoさん
      チャイカ様、コメントありがとうございます!
      心に響きましたよね。チャイカ様が感想に書かれていたとおり、安易な答えを出さないところに誠実さを感...
      チャイカ様、コメントありがとうございます!
      心に響きましたよね。チャイカ様が感想に書かれていたとおり、安易な答えを出さないところに誠実さを感じました。
      正しさや、こうあるべきより、もっと柔軟になりたいとおもいました。
      あらためて、この本を読むきっかけをありがとうございます。

      「シソンから、」も読むのが楽しみです♪
      2023/06/02
  • キム・チョヨプの記事一覧|Real Sound|リアルサウンド ブック
    https://onl.sc/d5AMLQe

    サイボーグになる - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b615154.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『サイボーグになる ――テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて』(キム・ウォニョン、キム・チョヨプ/著、牧野美加/訳、岩波書店) ...
      『サイボーグになる ――テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて』(キム・ウォニョン、キム・チョヨプ/著、牧野美加/訳、岩波書店) – K-BOOK振興会
      http://k-book.org/yomeru/20221203/
      2023/01/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『サイボーグになる』キム・チョヨプ/キム・ウォニョン著(岩波書店) 2970円 : 読売新聞
      https://www.yomiuri.co....
      『サイボーグになる』キム・チョヨプ/キム・ウォニョン著(岩波書店) 2970円 : 読売新聞
      https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20230227-OYT8T50061/
      2023/03/03
  • 身体や環境にハンディがある人が社会的成功を成し「こんな私にもできた、だからあなたにもできる」的な克服アピールにあふれる昨今。それを著者たちが「果たしてそうだろうか」という姿勢で社会にとことん向き合う。障害は除去したり克服しなければいけないのだろうか、と。煩わしさや感動対象とされる違和感を多数のリファレンスを用いて浮かび上がらせる。

    様々な示唆に富み、多岐に渡る考察ゆえ、はっきりとした結論がなく、現在進行形で著者2人の思考も葛藤の只中にいるため、パキッとした分かり易さなんて無い。しかしその分かりにくさこそが問題の複雑さであり、安易な答えを出さないところに、とても誠実さを感じる。

    表題にある「サイボーグ」についての論考も印象的。テクノロジーや先進性が良しとされる一方、補聴器や義足等の皮膚トラブル、気候に応じた器具の手入れ、痛みに耐え自然に見せる努力等、一挙手一投足のしんどさをメディアで取り上げているのは今のところ見たことがない。一般の人でもアクセサリーの材質で肌がかぶれたり、敏感肌のスキンケアに気を使ったりするのに、彼らの生活で感じる煩わしさはどれほどのものだろうと気付かされる。

    完璧さを目の当たりにしたり求められることが増えたことで非障害者あっても生きづらさを感じる社会において、「欠けた」存在の人々が当たり前にいる世界になれば、どのような変化が訪れるのだろうか。多角的な視点が数多く掲示されているので、うまくまとめられないが、沢山の学びを得られる本。

    • チャイカさん
      nanao様、コメントありがとうございます!
      そうなんですよ、色々思うところはあるけれど、当事者以外の人間がどうのこうの言うのは恐れ多くて…...
      nanao様、コメントありがとうございます!
      そうなんですよ、色々思うところはあるけれど、当事者以外の人間がどうのこうの言うのは恐れ多くて…それを当事者である著者2人が丹念に考察し、鋭くも誠実な姿勢で葛藤している姿に心を打たれるので、おすすめです!
      読み終わりましたらぜひ感想を聞きたいので、nanao様のレビューを楽しみにお待ちしております☆
      2023/05/13
    • nanaoさん
      チャイカ様
      たしかに、どうこう言うのは恐れ多いと感じるところがありますよね。著者お二人の視点からみてみたいです。
      感想、拙い文章ですが、、読...
      チャイカ様
      たしかに、どうこう言うのは恐れ多いと感じるところがありますよね。著者お二人の視点からみてみたいです。
      感想、拙い文章ですが、、読み終わったら自分なりに書いてみたいです。あ、あと、チャイカさんの感想を拝読して、「シソンから」「地球でハナだけ」も読みたいとおもってます!
      2023/05/13
    • チャイカさん
      nanao様、
      はい、ぜひぜひnanao様の感想をお聞きしたいです。
      「シソンから」「地球でハナだけ」は読みやすいけど読みごたえもあってすご...
      nanao様、
      はい、ぜひぜひnanao様の感想をお聞きしたいです。
      「シソンから」「地球でハナだけ」は読みやすいけど読みごたえもあってすごくオススメなので、読んでみたいと思ってくださって嬉しいです!
      私もnanao様が「遠きにありて、ウルは遅れるだろう」を読了されているのを見て、読みたい本リストに追加しました☆
      お互い読みたい本があふれてますが、、、こうやって感想シェアできて楽しいです。ありがとうございます!
      2023/05/13
  • 難しいテーマだったがなんとか読めた。

  • 伊藤亜紗さんが絶賛するTweetから検索してみると「世界が注目するSF作家キム・チョヨプと作家・弁護士・パフォーマーでもあるキム・ウォニョン」の共著とあり、おふたりそれぞれ「障害当事者」であるとの紹介文にも興味をそそられ読み始めた本書。
    2019年韓国の週刊誌連載(加筆修正したもの)と対談、日本語版の序文や参考文献もふんだんにあって読み応えのある一冊。

    「わたしたちは他人の生はそれぞれ極めて固有なものであるという事実を、知っているのにすぐ忘れてしまう。」

  •  キム・チョヨプの新作が出たと聞いてググっているときに本著の存在を知って読んだ。知らない領域のめちゃくちゃ興味深い内容で読書アドレナリン出まくりだった。障害を持つ当人たちの言葉は重く深いものであった。
     チョヨプ氏が聴覚障害、ウォニョン氏が足に障害を持つ当事者であり、そんな彼らが障害と社会、テクノロジーなどについて考察した論考が交互に登場、最後に2人が対談する構成となっている。チョヨプ氏は膨大な量の学術論文を引用しており比較的堅め文章であるのに対して、ウォニョン氏は具体例多め、エッセイのニュアンスも多分に含まれた柔らかめの文章になっており、それらが交互に登場することでいいバランスになっていた。障害に関する社会の受け止め方の現状を事実と情緒の両方から見ているとも言える。
     タイトルの「サイボーグ」は補聴器や車椅子といった補綴器をつけた人間のことを指しており基本的な論点は人間と補綴器の関係のバランスに関するものが多い。それは使用者からの捉え方や社会側の受け止め方まで角度はさまざま。一番わかりやすかったのはホーキング博士に対する視点。彼はALSを患っていて電動車椅子を使用していたけど「車椅子を使用する人」を超越するアイデンティティを持つため、車椅子は脇役でしかないと。一方でそういった強いアイデンティティを持たない障害者の場合、社会の受け止め方として障害が最初のラベリングになってしまう。こういった普段は考えないような微妙なグラデーションの差を一冊通して考察、深堀している。
     科学の進歩、テクノロジーの発展により障害が治療可能になったり以前よりも快適な状況を提供可能となった時代。しかし、それだけで障害に関する問題がすべて解決するという考え方に対して2人とも批判的である。本著を読むまではボトルネックになっているのは具体的な障害のみで、そこが解決すればクリアになると思っていたし、最近は義手、義足などもスタイリッシュとなり、それこそポストヒューマン的な語り口と共にかっこよさを滲ませる文脈さえある。そういった考えがいかに浅はかなのか痛感させられた。チョヨプ氏は本著内で「正常化の規範」と呼んでいたが、社会において凹んでいる部分が障害で、それを埋めれば良いという考えを批判している。その埋め方や埋めた後のことを考えている人が少ない。つまり現在の障害者にまつわる諸々は圧倒的に当事者性が低いという主張だった。そういった声を聞かずに挙句の果てには感動ポルノの材料にしてしまう場面もある中、いかに障害者自身の意見や考えを世の中に浸透させていく必要があるか、もしくはデザインや開発に直接携わる必要があるかを解説してくれている。なんとなくの認識のふわっとした議論ではなくリアリズムを見つめ愚直にひとつひとつ論考していく足腰の強さを文章の端々から感じた。
     社会が障害をスティグマとして取り扱ってしまうことで彼らの権利を暗黙の了解で侵食してしまっていることにも気づかされた。スティグマだからこそ隠したくなってしまう、卵が先か鶏が先かの議論ではなく明確に社会の認識から変わっていかなければならない。関係ないと思っていたとしても、人間誰しも突然の事故であったり老いや病気など、死ぬまでに「正常化の規範」から外れるときが必ず訪れる。他人ごとの人間はいない。そのためにできることの一つとして以下の一文が力強い。本著内で相当な頻度で引用されている伊藤亜沙の本を次は読んでみたい。

    *自分たちは未来に介入できるのだという認識から、そして迫りくる未来をただ受け入れるのではなく自分たちが未来の方向を変えることもできるのだという感覚からスタートしてみたい。*

  • 普段気付いていない視点や矛盾がいかに多いことか…本当にハッとさせられる。

    本書は、全体的に、障害者をめぐる既存の価値観(障害の定義/治療の対象・根絶すべきもの?/同情の対象?恥じるべきこと?/社会的スティグマ、などなど)への問い・挑戦になっていると感じた。
    同じ障害者でもその内容は様々。「経験」も「必要としていること」も「望むこと」も違うということが最後まで随所で述べられていたのが印象的で、障害者という枠/ラベルも、よい意味で壊してくれている。
    また同時に、障害者であるお二人も自己に対して上述の問いを投げかけており、とても共感する部分が多かった。

    障害者・非障害者に関係なく、すべての人が違う世界をもちながら同じ世界で生きているんだという視点をもつことで、みんながより生きやすい社会になるといいな。

  • 障害に対する社会的スティグマのせいで、わたしたちは「充分に障害者になる」ことをためらった。

    健常者が、作り出した「こうだろう」という枠にハマりたくないという抗い。ありのままの自分として「障害者になる」ことをしたいのに、できない。

    わたしたち健常者は、知らずに障害者の「ありのままで、在りたい」という真っ当な望みを阻害しているのか。

  • 障がい者の身体とテクノロジーの関係性について書かれているが、高齢化がより進むこれからの未来においては誰にとっても他人事ではない気がしました。
    車椅子や補聴器のようなものだけでなく眼鏡だってテクノロジーの恩恵であることを考えれば私もまたサイボーグなのかもしれない。
    自分の素の身体「だけ」で最後まで生きる人間なんていないのかもしれません。

  • 【書誌情報】
    『サイボーグになる――テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて』
    著者:キム・チョヨプ
    著者:キム・ウォニョン
    訳者:牧野美加
    ジャンル 社会
    刊行日 2022/11/17
    ISBN 9784000615679
    Cコード 0036
    体裁 四六・並製・カバー・316頁
    定価 2,970円

    世界が注目するSF作家と、俳優にして弁護士の作家。ともに障害当事者でもある二人が、私たちの身体性とテクノロジーについて縦横に語る。完全さに到達するための治療でなく、不完全さを抱えたままで、よりよく生きていくための技術とは? 韓国発・新しい社会と環境をデザインするための刺激的な対話。韓国出版文化賞受賞作。
    [https://www.iwanami.co.jp/book/b615154.html]

    【目次】
    日本語版への序文………キム・チョヨプ、キム・ウォニョン

     はじめに………キム・ウォニョン

    Ⅰ われわれはサイボーグなのか

     1章 サイボーグになる………キム・チョヨプ
      ダイヤモンド惑星のサイボーグの男
      遠くて身近な障害者サイボーグ
      向上ではなく変換する技術

     2章 宇宙での車椅子のステータス………キム・ウォニョン
      伴侶種車椅子
      鏡の前の障害者サイボーグ
      義足や車椅子は身体の一部だろうか
      車椅子になって

     3章 障害とテクノロジー、約束と現実のはざま………キム・チョヨプ
      障害を克服するやさしい技術?
      「わたしたちは障害を根絶します」
      技術は障害の終焉をもたらすだろうか

     4章 青テープ型サイボーグ………キム・ウォニョン
      火星で生き残ったヒューマン
      人間を超えた人間
      ホーキングほど人間的でないなら
      人間というアイデンティティーを問題視する存在
      青テープのような存在たち

    Ⅱ ケアと修繕の想像力

     5章 衝突するサイボーグ………キム・チョヨプ
      見えない障害
      サイボーグという烙印
      サイボーグはロボットスーツを夢見るのか
      サイボーグの身体を維持すること
      単一のサイボーグはない

     6章 「障害とサイボーグ」のデザイン………キム・ウォニョン
      骨工学の限界
      マッコウクジラの骨と見えない補聴器
      ファッションとディスクレション
      テクノロジー、障害、フェティシズム
      「不気味の谷」を回避して
      障害をデザインすること

     7章 世界を再設計するサイボーグ………キム・チョヨプ
      不具の科学技術を宣言する
      知識生産者としての障害者
      ユニバーサルデザイン、障害者中心のデザイン
      ストロー廃止は非障害者中心主義だろうか
      YouTubeとハッシュタグ、障害者運動の新しい波
      仮想空間のアクセシビリティー
      残された問い

     8章 スーパーヒューマンの継ぎ目………キム・ウォニョン
      障害を治す薬
      治療を受けてキャプテン・アメリカになる?
      滑らかさの誘惑
      シームレスなデザインと継ぎ目労働
      滑らかな世界に亀裂を入れる存在
      ガタつきを甘んじて受け入れる力

    Ⅲ 連立と歓待の未来論

     9章 障害の未来を想像する………キム・チョヨプ
      わたしたちの異なる認知世界
      あなたの宇宙船を設計してみてください
      火星の人類学者たち
      サイボーグニュートラル

     10章 つながって存在するサイボーグ………キム・ウォニョン
      二本の脚で立てば依存しなくても済むのだろうか
      わたしを世話するロボット、わたしが世話するロボット
      他人の顔を見なくてもいい生活
      連立の存在論――「共にあること」を助ける技術

    対談 キム・チョヨプ×キム・ウォニョン
     一つのチームになる
     生存以上の話
     障害と科学技術の複雑な関係を考える
     身体または存在を公表するきっかけ、オンラインとオフラインで
     障害の経験の固有性
     サイボーグという象徴に関して
     人間と技術文明の切っても切れない関係
     わたしたちの生が交差する瞬間

     おわりに………キム・チョヨプ

     謝辞
     訳者あとがき
     参考文献

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著者プロフィール

1993年生まれ。浦項工科大学で生化学修士号を取得。在学中の2017年、第2回韓国科学文学賞中短編部門にて「館内紛失」で大賞、「わたしたちが光の速さで進めないなら」で佳作を受賞。

「2021年 『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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