エウリーピデース IV ギリシア悲劇全集(8)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000916080

作品紹介・あらすじ

本全集は、3大悲劇詩人の現存する33作品の全訳である。あわせて、3大悲劇詩人およびその他の作家の失われた悲劇の断片のうち重要なものを収める。

感想・レビュー・書評

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  • 古代の概要や巻末の解説にも書いてあるが、この間に収録されている作品はいろいろ盛り込みすぎて非常に濃く、感情が過剰になり気味な感じがする。こんがらがってにっちもさっちもいかなくなったところを最後に神様が出てきて、登場人物たちをさらっとなだめて解決して終わり、という構成なので、消化不良の感もある。ヘレネーは実は悪女ではなく貞淑な妻で、トロイアへ連れ去られたのは幻でした、というびっくり設定の「ヘレネー」はそれでも面白かった。

  • ○ヘレネー:パリスとともにトロイへ行ったのはヘレネーの幻で、本人は戦争中ずっとエジプトにかくまわれていたとの説による。庇護してくれた王の死後、その息子テオクリュメノスに言い寄られていたヘレネーとエジプトに漂着したメネラーオスは再会して互いを認めあい、テオクリュメノスの妹である神官テオノエーの黙認のもと、エジプト脱出計画を練る。ヘレネーが主導権を取って、メネラーオスが死んだので葬儀をしたいとテオクリュメノスを欺いて葬式用の船を出させ、海上でギリシア勢はヘレネーの激励のもと、乗り組んでいたエジプト人を皆殺しにして帰国する。妹を殺そうとしたテオクリュメノスは突然現れたディオスコロイに説得されて思いとどまる。

    ○ポイニッサイ(フェニキアの女たち):イオカステーは真実を知っても自死しておらず、オイディプースは自ら盲目となった後、息子たちによって館の奥に幽閉されて怒りのあまり心を病み、息子たちに破滅的な呪いをかけたために、二人の息子はテーバイの支配者の地位をかけて戦争しようとしている。イオカステーは息子たちを和解させようとするが彼らは口汚く罵りあって決裂し、テーバイ王エテオクレースはクレオーンに後事を託して出陣する。クレオーンは町を救うためにテイレシアースを呼ぶがそのためには息子を生贄にする必要があると言われて豹変し、息子を逃そうとするが、息子の方はけなげにも生贄となって果てる。テーバイ勢が勝利するものの息子たちは相討ちとなって死んだため、イオカステーは自害し、その知らせに悲しむオイディプースをクレオーンは追放しようとする。クレオーンはアンティゴネーを息子の嫁としてとどめておきたかったが、不当な仕打ちに目覚めたアンティゴネーは父とともに町を出て行く。肉親の死後のアンティゴネーの変貌が異様な印象。ラストに姿を現すまで疫病神扱いのオイディプースはこの劇におけるデウス・エクス・マキーナの機能を担うか。

    ○オレステース:父を謀殺した母をアポローンのお告げに従って殺害したオレステースは、そのために正気を失って衰弱し、姉エーレクトラーとともにテーバイの民衆裁判で死刑の判決を受ける見込みである。二人はおじメネラーオスの帰還にのぞみをかけるが彼は頼りにならず、母の父にも断罪され、ついにその日のうちに自殺しなければならなくなる。進退きわまった彼らは、オレステースの母殺しに加担したため故郷を追放された親友ピュラデースの提案で、罪なる女の大元凶ヘレネーを殺害し、メネラーオスの娘を人質に取って彼と取引し、うまく行かなければ館に火を放って死ぬことを計画し、実行に移す。あわやという所でアポローンがあらわれて救済と和解を示して終わる。
     ラストでアポローンによって天上へ引き上げられるヘレネーは他人の不幸を黙殺し自分のことしか考えない嫌な女のきわみに描かれている。孤立した若者三人がヘレネー殺害に突っ走る短絡的思考がリアルで怖い。

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