影との戦い: ゲド戦記 (同時代ライブラリー 100)

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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002601007

作品紹介・あらすじ

血気にはやる若者ゲドは、魔法の修行中、傲りと妬みの心から禁じられた呪文を唱え、死の国の影を呼び出してしまう。その影(実は自らの魔性の影)との激しい戦いを通して、ゲドは光と闇の世界の神秘に触れ、人生の真実に目覚めてゆく。神話的な多島海世界を舞台に、「無意識の闇」の謎に迫るファンタジーの傑作。

感想・レビュー・書評

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  • ちょっと古い本の再読です。
    このころは同時代ライブラリーを結構読んでいたのだ。


    『影との戦い ゲド戦記』 アーシュラ・K・ル=グウィン 清水真砂子 訳 (岩波同時代ライブラリー)


    魔法使いの話。
    文句なしの100%ファンタジー。
    日常を離れてどっぷりと架空の世界に入り込めて楽しかった。
    訳者の清水真砂子さんの文章が、流れるように美しい。

    本を開くとまず、この物語の世界、アースシーの地図が載っている。
    多島海(アーキペラゴ)というだけあって、小さなたくさんの島々がひしめき合っていて、その一つ一つにきちんと名前が付けられている。
    全くの想像でこれだけ魅力的な世界が作れるとは!
    空想がぐんぐん膨らみます。


    アースシーのゴント島にある十本ハンノキという寂しい村に、ダニーという子供がいた。
    彼こそがのちに“大賢人”と呼ばれ、歌にもうたわれるようになった魔法使いのゲドその人であった。

    村のまじない師であったゲドの伯母は、彼の中にある並はずれた才能を見抜き、まじないの手ほどきをする。
    その後ゲドは、生涯の師となる魔法使いオジオンのもとで暮らすのだが、そこで彼は、のちに長きにわたり自らを苦しめることになる“影”を呼び出す呪文を知ってしまう。

    ある日、ゲドは、魔法学校のライバル・ヒスイに自分の力を見せつけるべく禁忌の呪文を使い、“影”を放ってしまうのだ。
    影はゲドを執拗に追い、苦しめる。

    ゲドを追う影とは実はゲド自身であり、妬みやおごり、劣等感や不安など、彼の内面にひそむ負の部分なのであった。

    最果ての海で、ゲドが影と対決するシーンは、一瞬周りから音が消えたような静謐な緊張感がある。
    深い静寂の中、ゲドと影が同時に互いの名前を呼び、一つになる場面は胸を打つ。


    この物語は魔法使いの話だけれど、派手な魔法合戦が繰り広げられるでもなく、きらびやかな魔法使いの暮らしが描かれているでもなく、一人の少年が青年になるまでの葛藤や苦悩がテーマであるという点で、非常に地味である。
    しかし、ゲドの未熟さや一生懸命さは私たちの心を動かすし、今この時、誰もが人生の旅の途中なのだということを、読みながら改めて思い知らされる。


    アースシーの世界では、めったやたらと魔法を使ってはならないという規則がある。
    私がこの物語を好きな理由だ。

    「魔法によって物を別の物に変えることは、その物の真の名を変えなければならないということ。
    それを変えることは宇宙そのものを変えてしまうこと。
    それは宇宙の均衡を揺るがす危険なことである。」

    「魔法の限界を知ること。」

    「魔法使いの力にかなうものは、自分の身近なもの、つまり、すべてを正確にあやまたずに、その真の名で言い得るものに限られる。」

    「風とか雨とかいった自然の力を呼び出すことは、そうしたものを部分としているこの自然界の状態を変えることになるのだから、真の魔法使いというものは、いよいよにならなければそのような魔法は使わない。」


    かっこいいですね。
    魔法使いが賢人と呼ばれるのは、世界のすべてを知り尽くしているから。

    そして、全き人間となり大きく成長をとげたゲドの冒険は、まだまだ続くのである。
    (ゲド戦記シリーズは6巻まであるらしい)


    血気はやる若者ゲドに自分を重ね、ともに旅をすることで、本当に大切なことや、生きることの基本の部分が見えてくる。
    でも、逃げないで向き合うことは、やっぱり怖い。

    ジャンルは児童文学だけれど、大人でも、というかむしろ大人である今読むことに意味がある。
    そんな本だった。 

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/449902

  • 少年少女向けのファンタジー小説なんだけど、なんだか薄暗くて、子ども向けとは異質な感じがします。昔、大学生の時くらいに初めて読んで、なかなかおもしろいなあと思ったのですが、ふと再読。全体的な印象は同じですが、「子ども向けなのに、こんなに深い描写があったのか!」とびっくりすることも多かったです。
    ひとつ引用すると・・・
    「子どものころは、魔法使いに不可能なことなどないと思っていた・・・だが事実は違う。力を持ち、知識が豊かにひろがっていけばいくほど、その人間のたどるべき道は狭くなり、やがては何ひとつ選べるものはなくなって、ただ、しなければならないことだけをするようになるものなのだ」
    引用文を打ち込むだけでも、なんだか諦念のようなものがじわーっと浸みてきました。やれやれ。【2019年7月28日読了】

  • 岩波同時代ライブラリー版。同版ではゲド戦記はこの巻のみ刊行。
    16センチ*11センチという文庫でもない新書でもない、第三の版型として鳴り物入りで出版されたが、続きませんでしたね。
    平凡社、小学館、NHK(?)も同じサイズで発刊していました。
    (平凡社ライブラリーは現在も継続中)

    内容に関してはいうまでもなく素晴らしい。よって割愛。
    当時このサイズでゲド戦記をそろえたかった夢が、岩波少年文庫でかなうことになるとはねぇ....

  • ゲド戦記は「影との戦い」「こわれた腕環」「さいはての島へ」の3冊からなるゲド(ハイタカ)の物語。影との戦いはゲドの子供時代の話で、生まれ故郷であるゴントから、ロークの学院を経て、ペンダーでイエボーという竜と戦い、オスキルやアスタウェル東で影と戦う。エスタリオル(カラスノエンドウ)という親友が出来、人間的に成長していく。最終的に影と一体になるところで終了。

  • (1992.05.23読了)(1992.03.16購入)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    血気にはやる若者ゲドは、魔法の修行中、傲りと妬みの心から禁じられた呪文を唱え、死の国の影を呼び出してしまう。その影(実は自らの魔性の影)との激しい戦いを通して、ゲドは光と闇の世界の神秘に触れ、人生の真実に目覚めてゆく。神話的な多島海世界を舞台に、「無意識の闇」の謎に迫るファンタジーの傑作。

  • 「自分とは何か」ということを己の影の部分と真向から対峙し、受け入れることで理解していく。はじめの村での戦闘やドラゴンとの闘いとは全くの別次元の戦いで「影との戦い」をみせている。

  •  子どもの本を大人でも読みやすいようにと銘打った、「同時代ライブラリー版 ゲド戦記」です。もちろん、大人が読むのに堪え得る本です。

  • 同時代ライブラリー文庫版
    持ちやすくなって大助かり。
    好きな本はどこにでも持ち歩いて何度も
    読み返すので、文庫版と文芸書版があると
    経済的にはきつくても、ありがたいです。

  • ひさびさに読み返す。

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著者プロフィール

1929年10月21日-2018年1月22日
ル=グウィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』でヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞している。またローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞。

代表作『ゲド戦記』シリーズは、スタジオジブリによって日本で映画化された。

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