検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? (岩波ブックレット 1080)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002710808

作品紹介・あらすじ

「ナチスは良いこともした」という言説は、国内外で定期的に議論の的になり続けている。アウトバーンを建設した、失業率を低下させた、福祉政策を行った――功績とされがちな事象をとりあげ、ナチズム研究の蓄積をもとに事実性や文脈を検証。歴史修正主義が影響力を持つなか、多角的な視点で歴史を考察することの大切さを訴える。

感想・レビュー・書評

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  • 「ナチスは良いこともした」という議論が定期的に繰り返されている。
    「はじめに」がとっても重要なことを言っていると思う。
    著者はE Hカーの叙述を紹介する。「カエサル以前も以降もルビコン川を渡った人は無数にいる。カエサルの事実が切り取られて重要なのは、歴史家がそこに大きな歴史的重要性を見出すからだ」
     歴史の一断面を切り取って善悪を判断することは、しばしば間違う。切り取れてきたものの妥当性を相互チェックするというのが、学問本来のあり方だろう。
    それには、「事実」「解釈」「意見」の検討が重要である。「解釈」までは、目的や文脈などで検証が可能であるが、「良いものは良いのだ」という「意見」に対してはどう対処するか。著者はだからこそ「解釈」が重要だという。「事実」から一挙に「意見」に飛躍すると、現代社会でそれが共通了解になることはおそらくないだろう。と著者は言う。(←ホントにそうか?日本はそうなっているのではないか?)

    以下個別的検証
    「ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?」
    ←支持する理由は一定あったし、人々はそれによる利益も享受されていた。しかし、「熱狂的」とは言えなかった。「強制」という面もあった。

    「経済回復はナチスのおかげ?」
    ←大きくいえば、過剰な財政支出に基づく軍需経済で、破綻の危機と紙一重のいわば綱渡りの体制だった。しかも、「収奪の経済」「外国人労働者の強制労働」があった。
    ←この辺りは「事実の検証」のみである程度立証できる。 

    「ナチスは労働者の味方だったのか?(福利厚生措置)」
    ←①先駆的な取り組みではなかった。②目的は労働者の管理・統制のためだった。③実際に労働者の生活は改善もされなかった

    「手厚い家族支援?(結婚資金貸付制度)」
    ←①ナチスオリジナルの政策ではなかった②目的は戦争を戦い抜くため。しかも社会主義者、ユダヤ人、障害者などは排除された③確かに子供は増えた。しかし政策のためではなく、世界恐慌のために控えていたカップルが、景気回復のために一時的に子供を産んだだけ。
    「先進的な環境保護政策?」「健康帝国ナチス?」
    等々も同じような経過を辿る。

    著者は「おわりに」で、
    「「ナチスは良いこともした」と主張する人たちにあっては、そうした反権威主義的な姿勢はいわゆる「中二病」的な反抗の域を出ず、(略)過去の研究の積み重ねから謙虚に学んで、それを批判的に乗り越えてゆく姿勢はほとんど見えない。」
    と述べている。

    ナチスに関する歴史については、こんなにもわかりやすい「入門書」が作られるのに、どうして日本の朝鮮半島への植民地支配については、ネットではなく、書き捨ての一時本ではなく、きちんとした「入門書」が作られないのか?

    「日本は朝鮮半島に良いこともした」という「解釈」や「意見」に対して、私たちはどう向き合えば良いのか。
    それを考える契機にしたいと思う。

    • kuma0504さん
      猫丸さん、ありがとうございます♪
      知りませんでした(^^;)。
      早速図書館に予約しましたが、流石に最近重版されただけあって、既に1人借りてい...
      猫丸さん、ありがとうございます♪
      知りませんでした(^^;)。
      早速図書館に予約しましたが、流石に最近重版されただけあって、既に1人借りていました。
      2024/01/23
    • yukimisakeさん
      猫丸さんありがとうございます!今日図書館行くので見てきます!
      猫丸さんありがとうございます!今日図書館行くので見てきます!
      2024/01/23
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ひまわりめろんさん kuma0504さん yukimisakeさん
      皆さん反応・対応早い、、、
      猫は、近々←当てにならない

      『検証...
      ひまわりめろんさん kuma0504さん yukimisakeさん
      皆さん反応・対応早い、、、
      猫は、近々←当てにならない

      『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』が売れているそうなので、読んだ方が目を向けて呉れますように、、、
      2024/01/24
  • 歴史学から見て、ナチスに評価できる点はあるか?

    評価したくないですよね。普通に。

    しかし、景気対策としてのアウトバーン建設、フォルクスワーゲンの開発、労働者福利厚生としての余暇組織「歓喜力行団」、家族政策、環境保護、健康施策など、評価できる点もあるという人もいる。

    そういう不正確な情報や怪しげな俗説を、専門的な研究成果として徹底的に退けていく本。

    正直、かたくて、あまり面白い本ではない。
    ただ、たまにはこういう本も読んでおいて損はないかな。

    ♫ If You Tolerate This Your Children Will Be Next/Manic Street Preachers(1998)

  • 爽快!

    常々思っていたことを、明確なデータを論拠としながら次々と肯定していってくれたので(ひまわりめろんにとって)とてつもない良書でした!

    いやでもこれはひろく読まれて欲しいな

    この本の素晴らしいところは「良いこと」を最初にきちんと定義してるところなんですよね 
    「悪いこと」って割と共通理解を得られやすいんだけど(ナチで言えばホロコーストとかね)「良いこと」っていうのは個人の価値観にかなり振り回されちゃうと思うんで、そこが曖昧なまま始まっちゃうと嫌だなって思って読み始めましたが、「はじめに」できちんと定義してくれてました

    さすが岩波書店
    納得しやすいよね

    一般にナチスがした「良いこと」として挙げられることが多い
    ・アウトバーン建設などによる景気回復
    ・有給休暇の導入や娯楽、安価な車やラジオの提供による労働者の生活改善
    ・手厚い家族支援による出生率の改善
    ・先進的な環境保護及び動物愛護
    ・禁煙、禁酒の推進とガン研究による健康増進政策

    これらについて歴史学からみて、ほんとにそうなん?ってところをわかりやすく解説してくれてます

    ほんとにナチスは「良いこと」もしたの?
    結果は読んでみてちょーだい!ってことよ

    〈以下追記〉
    と、思ったけどわいの筆力が足りずにいらん誤解を招きそうなので加筆修正いたします

    「良いこと」なんか1個もしとらんわ!ふざけんな!というのがこの本の結論です
    もちろんわいの意見も全く同じです

    なんかナチの信奉者みたいに受け取られると不本意すぎるのでそこは明確に否定しておきます

    たとえたまたま後になって良い結果を産んでいたとしても邪悪な目的の為に用いられた手段は「良いこと」は言えんだろ!というのがわいの意見だったんですが、この本ではさらに「別に良い結果も産んでなかったよ」ということも示されていて、そこに爽快感みたいなんを感じたわけです

    • 1Q84O1さん
      師匠から弟子へ勧める真面目で素晴らしいコメント(´゚д゚`)
      チェックしてみます!
      師匠から弟子へ勧める真面目で素晴らしいコメント(´゚д゚`)
      チェックしてみます!
      2023/10/31
    • kuma0504さん
      コレはね、図書館で借りようとしたら再来年になりそうだったので、珍しく買ったんですよ。そしたら、本の山に埋もれて只今行方不明中。なんとか探して...
      コレはね、図書館で借りようとしたら再来年になりそうだったので、珍しく買ったんですよ。そしたら、本の山に埋もれて只今行方不明中。なんとか探して、メロンさんのあとを継ぎますね。
      2023/11/01
    • ひまわりめろんさん
      Σ(゚Д゚)
      再来年て!

      これはね、思った通りの良書でしたよ!
      ほんとは自分も買いたかったんですよ( TДT)

      岩波ブックレット、絶対な...
      Σ(゚Д゚)
      再来年て!

      これはね、思った通りの良書でしたよ!
      ほんとは自分も買いたかったんですよ( TДT)

      岩波ブックレット、絶対なくしちゃならないレーベルです!

      早くレビューを!w
      2023/11/01
  • ナチスは「良いこと」もしたのか?
    それを知るには事象だけをみず、オリジナルか?目的は?結果は?と問う。
    一見、素晴らしい政策のように見えて、どこかの、誰かの焼き回しであり、すべてはドイツ人の民族共同体の確立と来たる侵略戦争への準備であるという。
    ナチスのユダヤ人に関するプロパガンダは、どこぞの隣国の日本に対する態度にそっくりだった。
    この本の発刊のきっかけが、SNSでの蒙昧な批判をすることに血道をあげる困った人たちにあったとは驚いた。

  • ナチスについての最新の研究成果を歴史研究者が分かりやすく紹介した本。2段組み・120ページで、ブックレットの枠を超えた充実度だ。

    本書が依拠するのは、「民族共同体」論という、現在のナチズム研究において広く支持されている考え方である。それによると、ナチ体制が掲げた「民族共同体」は、健康で生産性の高いドイツ人を「民族同胞」として包摂する一方で、人種的・社会的に「劣等」とされた人びとを「共同体の敵」として徹底的に排除した。そして、「民族同胞」向けの優遇は、「敵」からの収奪や排除によって成り立つものであった。本書では、その実例が、経済、労働者保護、環境保護、健康などについて、明快に提示されている。

  • なぜナチズムは「国家社会主義」ではなく「国民社会主義」と訳すべきなのか(小野寺 拓也) | 現代ビジネス | 講談社(2021.03.14)
    https://gendai.media/articles/-/81126

    新書の役割――「ナチスは良いこともした」と主張したがる人たち(田野 大輔) | 現代新書 | 講談社(2021.06.27)
    https://gendai.media/articles/-/84256

    検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b628046.html

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    続けて『検証 アベは「良いこと」もしたのか?』が出るかも。。。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      田野:「ナチスは良いこともした」と言いたがる人は、ナチスを悪と決めつけること自体に反発してるんです。
      ↓下記のサイトからコピーしました。
      専...
      田野:「ナチスは良いこともした」と言いたがる人は、ナチスを悪と決めつけること自体に反発してるんです。
      ↓下記のサイトからコピーしました。
      専門知と民主主義を考える――行き過ぎた相対主義の中でーー『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)刊行記念イベントから - 文学通信|多様な情報をつなげ、多くの「問い」を世に生み出す出版社(2023年12月 8日)
      https://bungaku-report.com/blog/2023/12/content.html

      ナチスは「良いこと」もしたのか? 話題の本を読んでアウトバーンとフォルクスワーゲンで検証してみた | クルマの旅・ドライブ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル(2023.09.22)
      https://www.bepal.net/archives/354327
      2024/02/13
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      繰り返す「在日特権」論は100年前のドイツと同じ 社会保障の行き詰まりを「あいつらのせい」に転嫁:東京新聞 TOKYO Web(2024年3...
      繰り返す「在日特権」論は100年前のドイツと同じ 社会保障の行き詰まりを「あいつらのせい」に転嫁:東京新聞 TOKYO Web(2024年3月1日)
      https://www.tokyo-np.co.jp/article/312299
      2024/03/04
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『検証 ナチスは 「良いこと」もしたのか?』 : 典型的な「中二病」の逆張り|年間読書人(2024年3月23日)
      https://note....
      『検証 ナチスは 「良いこと」もしたのか?』 : 典型的な「中二病」の逆張り|年間読書人(2024年3月23日)
      https://note.com/nenkandokusyojin/n/nc2b3c78e3131
      2024/03/26
  • とてもとても良かった。
    よく引き合いに出されることを、①それはナチスのオリジナルか(歴史的経緯)②どのような目的だったか(歴史的文脈)③それは「肯定的」な結果を生んだのか(歴史的結果)の3つから検証していて、非常にわかりやすい。
    これは家に置かなきゃな本。
    ナチスについて知るためでもあるし、他のことにしても考える際にこうやって検証するのだと手本にしたい。
    とても冷静な筆致なんだけど、「おわりに」はツイッターで絡まれた話から、怒りの炎がほとばしっておられました…ほんとにもう著者様方はじめ、心ある専門家の皆様、お疲れ様です…。

  • 話題の本。2023年7月刊だが、11月現在でもアマゾン・ヨーロッパ史カテゴリで3位となっている。

    岩波ブックレットの1冊で、約120頁と、さして厚い本ではない。
    「ナチスはよいこともした」という議論は定期的に繰り返されてきていて、特に、SNSが大きな力を持つ現代において、この話題は時に大きく「バズる」。
    ナチスはある種、「絶対悪」として位置づけられている。ナチスを支持すると公言することは多くの人にとって躊躇われることだろう。常識的には、多くの人はナチスを否定し、ナチス的であると言われることはすなわち悪口であり、時には中傷であるだろう。
    著者らが「はじめに」で触れるように、そこにはポリティカル・コレクトネスがある。そういった「正しさ」に反発したくなる人が出てくるのは必然であるのかもしれない。もちろん、物事を一面的に見ずに多角的に見ることは大切で、常識を疑う姿勢も大事なわけである。だが、ここで問題になるのは、ではナチスに関してよく言われる「よいこと」は本当に妥当なことなのかということだ。
    しばしば取り沙汰されるのは、「結局は人々が選んだ政権である」「アウトバーンを作った」「経済を立て直した」「有給休暇や源泉徴収を発明した」「デザイナーズブランドによるかっこいい制服を作った」といったもの。
    これらの中には事実関係として誤っているものもあれば、当時の社会的背景を十分に考慮していないものもある。こうした1つ1つを歴史学者が真面目に検証するというのが本書の主眼である。

    ヒトラーとある少女との交流を取り上げて「ヒトラーにも優しい心はあった」とするような意見は、ある種、プロパガンダに目くらましされているというのはわかりやすい例だろう。
    アウトバーン建設は、そもそもは前政権の方針を引き継いだものであり、軍事的・経済的効果はそれほど大きいものではなかったという。むしろプロパガンダ効果が大きく、この建設により、「ヒトラーがアウトバーンを作ってドイツを復興した」という説が(今に至るまで)生き続けることになった。
    労働者向けに福利厚生を取り入れたとの意見もあるが、多くは他国の模倣やすでに着手されていたものの継承で、目新しいものはなかった。これらを大規模に行い、同時に誇大な宣伝を行ったことからナチスの「手柄」であるように見せかけたというのが実態のようだ。

    個人的に最も興味深く読んだのは、第三章「ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?」。ヒトラーや幹部にどれほど権力があろうと、やはりそこに人々の支持がなければ体制は維持できない。ここで、ドイツ人がナチを「支持」するというのはどういうことだったのかという考察である。いわゆる「普通の人々」が「悪」を熱烈に支持していたのかどうか。ナチ体制誕生時のドイツには、そもそも反ユダヤ主義が広がっていた。そのきっかけとなったのが第一次世界大戦である。ドイツが劣勢となった理由が、ユダヤ人の「裏切り」や「前線勤務拒否」によるものだという噂が急速に拡大していった。そうした「社会的反ユダヤ主義」は、ナチ体制の暴力的な「政治的反ユダヤ主義」とは一線を画するものではあったが、反ユダヤを受け入れる一定の基板とはなっていた。また、ユダヤ人が迫害され、追放されることで、空いたポストを手に入れたり、あるいは彼らが残した財産を得て経済的に潤ったり、といった、実質的な「利益」も生じた。さらに、ナチ体制がユダヤ人を「敵」と見なしたことで、彼らとの交際にはリスクが生じることになった。積極的に排除しないまでも、消極的に関わりを避けてゆく人々が出るのは無理からぬことではあった。
    結果的に、全体として、ナチ体制の反ユダヤ政策はドイツ国民から「支持」されているように見えてくる。だが、それを「熱狂的」と捉えるのは、実像からはかなり離れているのではないか。

    歴史学的な視点からの検証はなるほどと頷く点も多い。
    「ナチスはよいこともした!」と主張する人々にこの本は届くのかというあたりは若干疑問なのだが、専門家が一般書の形で学識を提供してくれることは大いに歓迎したい。

  • たまたまネットで見つけました。ちょっと難しいですが、何とか読み終わりました。そうなのかー!納得です。

  • ナチスは「良いこと」もしたのだろうか?
    本書では時系列を混同したり大雑把に語られがちな「ナチスの功績」をひとつひとつ具体的に整理し数字を上げて検証していく。有無を言わさず“否“と答えは出るのだけど、同時に現代日本の政治状況とナチスとの類似性にも気付いてしまう。
    そうかー。ウマミが有るから彼らは一生懸命「良いこともしたもん」って言いたくなるのか!
    2013年に「(ナチスの)手口を学んだらどうか」と発言した麻生氏も、いよいよ政界引退するとのこと。本来ならその時に議員辞職させるべきでした。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京外国語大学世界言語社会教育センター特任講師。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。専門はドイツ現代史。『野戦郵便から読み解く「ふつうのドイツ兵」―第二次世界大戦末期におけるイデオロギーと「主体性」』(山川出版社、2012年)、ほか。

「2019年 『ナチズムは再来するのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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