梅暦 (上) (岩波文庫 黄 232-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (438ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003023211

感想・レビュー・書評

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  •  上巻収録は3編。「春色梅児誉美」は1832(天保3)年-1833(天保4)年、「春色辰巳園」は1833(天保4)年-1835(天保6)年、「春色惠の花」は1836(天保7)年に刊行された「人情本」。
     つとに有名な為永春水の「梅暦」シリーズは、永井荷風も若い頃から親しんだ作品で、荷風の小説を「為永春水とモーパッサンを足したようなもの」と評したのは誰だったか。なるほど、本書を読んでみると、荷風の『腕くらべ』あたりはこの世界に近いと思う。
     岩波文庫は歴史が古く、本書の第1刷が発行された1951年には、旧仮名遣い・旧漢字・当て字・江戸期の古文等を難なく読みこなせる読者が多かったのだろう。本書には注も何も無いので、私のように古文の苦手な現代人にはちょっとハードルが高い。だいたいの意味は分かるようで、ときどき読解できない箇所もあって苦労して読んだ。
     が、上田秋成『雨月物語』と同様に、既にしてこれは日本流の「小説」と呼ぶべきものである。坪内逍遙みたいな、江戸時代の読本は近代小説とは違う、なんてエラそうなゴタクを並べたあげくに、実際には江戸時代の読本と変わらないような時代遅れの「小説」を自ら書いちゃうような輩は無視して良い。
     しかしもちろん、我々が馴染んできたヨーロッパの近代小説とはいろいろと違っていて、そこが面白い。春水(1790-1844)より9歳若いオノレ・ド・バルザック(1799-1850)と比べると、確かに後者の方が視覚的描写や人物・心理描写はきっちりとしていてよく掘り下げられている。一方春水は、人物の心理をも描写するけれども、さして鋭いようなところはなく、分かり易い「恋の情緒」を演歌的に詠じて、地の文より会話文の方でその情緒を連綿と歌うようにすることで、世間の読者に訴えかける。もちろん自ら「戯作者」と認識しておりヨーロッパ近代人のように「芸術は、芸術は」と頭を抱えたりすることもない。この演歌的な文学世界は、私にはむしろ、19世紀のイタリアのオペラに近いような気がした。バルザックからフローベールへとつながるような、ロジカルな心理洞察とはちがう、ひたすらに情緒性へと向かう志向性は、ある意味「音楽的」とも見える。
     さて物語内容だが、「春色梅児誉美」が中心的なストーリーで、他のは、「梅児誉美」の脇役をクローズアップしたスピンオフ的なドラマとか、前日譚とかの枝葉を広げたものだ。江戸の深川(婦多川などと記されている)の花柳界を舞台に、芸者が沢山登場し「かわいい」「かわいい」と盛んに形容されている。「梅児誉美」の男性側の主人公丹次郎がやけにモテモテで、読んでいて腹が立ってくるくらいモテまくるのだが、彼に惚れてしまう花柳界の女性は多数。そして女性同士で焼き餅焼き大会が始まる。丹次郎の態度は誰が本命とかはっきりすることなく、何やら適当に女遊びをしている無責任男みたいに見える。
     本作の描写は、女性の心を描くことに重心が置かれており、そのために、男性丹次郎の心理はあまり追われることが無い。作者はたぶん、女性への興味が強く女性を描きたかったのであり、男などは脇役で良かったのである。この辺は永井荷風も同様と思われる。
     それぞれに美しい女性たちに引っ張りだこのウハウハ状態は、いつの世でも男たちの夢だ。現在でも、少年マンガでは少年は複数の女の子たちから思われ、少女マンガでは女は複数の男から迫られる、という構図が王道である。嫉妬などもされながら、そんなにまでして「思われ、求められる」という状況は、自尊心をこの上なく満足させてくれる。愛されることの幸せ。
     当時、この本(たぶん当時としてはベストセラー)を読んで大喜びしたのは男性の読者たちだったろう。
     ただし、こういう軟弱な?恋愛ものは、当時滝沢馬琴などにも「世間に毒を流して憎むべき」などと怒られたし、天保の改革では鎖につながれる結果になる。しかし当時においてどうやらすこぶる普遍的な女性の美のイメージや恋愛模様を刻み上げた文学的功績は大きい。
     本巻中「梅児誉美」と「辰巳園」は、もうちょっと語学力を上げてからまた読み返してみたいようにも思う。

  • 近世古典の入り口としては、最適!読みやすくて面白いです。一見単純な話ですが、学ぶ度、読む度に、発見があります。

  • スゴク面白いです!副読本があるといいな。

  • 半分くらい。
    江戸時代の文章だからちょっとよみにくくてなかなか進んでません。
    昔誰だったかの論文読んで「面白そう!」とおもって買ったんだとおもう。
    でも面白いです。恋愛小説。

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