- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003102749
作品紹介・あらすじ
幼な子の昔、亡き母が唄ってくれた手毬唄。耳底に残るあの懐かしい唄がもう一度聞きたい。母への憧憬を胸に唄を捜し求めて彷徨する青年がたどりついたのは、妖怪に護られた美女の棲む荒屋敷だった。毬つき唄を主軸に、語りの時間・空間が重層して、鏡花ならではの物語の迷宮世界が顕現する。
感想・レビュー・書評
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幼い時に亡き母が歌ってくれた手毬唄をもう一度聞きたいと探し求めて放浪した青年がいわくつきの屋敷に辿り着き、そこで様々な怪異に出会う物語。本筋の主人公となる青年の他に別の主人公として旅の僧が登場し、最初は旅の僧を相手にその地域や人の怪談や伝承が語られる。そのため、後半にならないと本筋にならなかったので、物語の方向性を見極めるのに時間がかかった。
舞台となる地域の地元の登場人物は方言で喋っていたり、比喩が難しかったりと全部を理解できている自信は最後までなかったが、「霞のような小川の波」「その樹立(こだち)の、余波(なごり)の夜に肩を入れた」といった泉鏡花らしい美しい描写が多く、詩を読むようにして読み進めていった。
最終的に屋敷の真相は旅の僧が聞き届けるが、その間、青年は夢の中におり求めていた手毬唄を目の前で歌われても気付くことができなかった。おそらく目覚めた時にも旅の僧は理由を加味し真相を青年に話すことはせず、青年はまた放浪の旅に出ることになるだろう。分からないものがあるが故の神秘や不思議さ、まだ得ぬものに対してどうしようもなく惹きつけられる魅力によって、この青年は純真さを保ち続け、この物語は美しいまま終わった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1908年(明治41年)。
亡き母の象徴たる手毬唄に焦がれ、彷徨う青年が辿り着いた迷宮の話。芋茎の葉の面を着けた子供たちが、「通りゃんせ」を唄いながら駆けていくシーンが、残像のように奇妙に印象に残っている。 -
泉鏡花が1908年に発表した作品。寺山修司によって実写映画化もされている。明治期の作品なので文語体で書かれており、最初のとっかかりがつかみにくいが、一度波に乗ってしまうと、この不可思議な世界から抜け出せなくなってしまいます。各章によって、人物の視点や時系列がめまぐるしく入れ替わっており、注意して読まないと、自分がどの時点の誰の話を読んでいるのか飛びそうになることもあります。この作品の後半で舞台となる、幽霊屋敷の中での話は本当に美しくて怖い話です。きれいな日本語で語られる異世界を覗いてはいかがでしょうか。
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短編ながら物語が遠くから回って、しかも語り手がコロコロ変わる。少々分かりにくいところがあるけれど、風景や心象の描写がとても綺麗で、読んでいて落ち着きます。
ストーリーもこの作者らしい妖しい世界で、それがまた官能的な雰囲気を一層深くしています。
妖艶、とはまさに。そんな世界に嵌まりたい方は、ぜひ。 -
語り手が次々に入れ替わり、また文体も普段読む小説とは大きく異なっているので時々目が滑った。景観や場の雰囲気、女性が書かれるときの比喩と表現は独特で胸がざわめくほど美しい。特に僧侶小次郎が夜半に妖しのものとまみえる辺りからは渦を巻く言葉と文章の絢爛さに目が眩む。後半から結末までは緊迫感を含んだ展開に引き込まれた。表紙の紹介文で触れられている「重層」的な構造もこの部分の対話を通して味わうことになる。幻影、追憶、怪異に翻弄され、気がついたら迷宮の奥深くまで足を踏み入れていたような感覚。そっと蝋燭を吹き消すような、唐突かつ静かな終わり方も印象的だった。
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夏に読みたい、泉鏡花の妖怪譚。母子の情に重点がおかれているので読みやすい。独特の文体は読み進むほどに心地よく、真夏の夜の夢のお供に最適です。
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亡くなった母親が口ずさんでいた手毬唄を探して旅に出た青年が、
鬱蒼とした草木に覆われた屋敷へ辿り着き、
妖怪変化に取り巻かれながら、その唄に巡り会うという幻想譚。
鏡花が療養のために滞在していた逗子の風景が織り込まれた作品で、
冒頭、神奈川県民には馴染みのある地名が多々登場するのも愉快。
「稲生物怪録」を妖美にしたような物の怪騒動記だが、
狂言回しの遊行僧・小次郎法師のキャラが親しみやすくて
イイ味を出している。
この本は引っ越しのときにうっかり処分してしまったので、
大分後になって、
これが収録されている、ちくま文庫『泉鏡花集成』第五巻を購入。 -
妖しい魅力たっぷり。
母の面影を求める少年と、置いてきた我が子を天から強く想う母、それを語る幼馴染がどこかロマンチックでもある。
語り手が次々変化していくのも面白い。
話の筋を拾うだけでいっぱいいっぱい。
いつかまたチャレンジしたい。 -
なんだかおどろおどろしい雰囲気もありながら、思っていたよりも切ない話で胸が苦しくなりました。話のテンポや言葉の選び方に作者の個性を感じました。
単純に自分の読解力のなさで大意しか読めなかったのでまた改めて読んでみたい作品。